東京・墨田区のすみだ北斎美術館では、企画展「北斎でひもとく!浮世絵版画大百科」が開催されています。
今回の企画展は、浮世絵版画に多くの注目が集まった今年(2025年)の締めくくりにふさわしい、浮世絵版画の歴史や技法、テーマなどをひもといて、その幅広い魅力を感じとることができる展覧会です。
先日さっそく拝見してきましたので、展示の様子をご紹介したいと思います。
| 展覧会チラシ |
展覧会開催概要
会 期 2025年12月11日(木)~2026年2月23日(月・祝)
※前後期で一部展示替えあり
前期:2025年12月11日(木)~2026年1月18日(日)
後期:2026年1月21日(水)~2月23日(月・祝)
休館日 毎週月曜日
開館:2026年1月3日(土)、1月12日(月・祝)、2月23日(月・祝)
休館:2025年12月29日(月)~2026年1月2日(金)、1月13日(火)
※ただし、2026年1月20日(火)は展示替えのため当企画展は休室
会 場 すみだ北斎美術館 3階企画展示室
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
主 催 墨田区・すみだ北斎美術館
観覧料 一般1,000円、高校生・大学生700円、65歳以上700円、中学生300円
障がい者300円、小学生以下無料
※観覧当日に限り、4階『北斎を学ぶ部屋』、常設展プラスもご覧になれます。
※展覧会の詳細、チケットの購入方法、各種割引の詳細、最新のイベント情報は同館公式ホームページをご覧ください⇒https://hokusai-museum.jp/encyclopedia/
※企画展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は、主催者より広報画像をお借りしたものです。
展示構成
プロローグ
1章 日本の木版画 その始まり
2章 浮世絵版画をひもとく
3章 生活の中に息づく浮世絵版画
4章 時代によって変わる浮世絵版画
今回の展覧会では、いくつものサプライズが楽しめたのですが、最初のサプライズは冒頭に展示されている平安時代後期の木版画「阿弥陀如来坐像印仏」(長治2年(1105) すみだ北斎美術館蔵 前期展示)でした。
この木版画は、なんと日本最古の図像版画として知られ、京都・浄瑠璃寺(現・木津川市)にある、九体阿弥陀像(国宝)の中尊の胎内に収められていたものなのです。
(後期には「浄瑠璃寺摺仏」(年代未詳 すみだ北斎美術館蔵)が展示されます。)
日本の木版画の始まりは、飛鳥時代(593-1192)に中国から伝来した仏教の普及に深く関係し、平安時代(794-1192)になると、仏教の経典を大量に作るため、木版での摺刷が行われるようになったとのことですが、浮世絵版画が誕生するまでに木版画の長い歴史があったことをあらためて実感することができました。
浮世絵版画の誕生は江戸時代(1603-1867)の初期頃ですが、墨一色の《墨摺絵》だった浮世絵版画が、紅を加えた《紅摺絵》、そして、複数の色を版木で摺り重ねた多色摺木版画=錦絵になるまでも長い歴史がありましたが、次のサプライズは、輪郭線を摺る主版や色ごとに分けた色版がずらりと展示されていることでした。
浮世絵を摺るための版木は、使い終わったら他の作品に転用されたりするので、版木が残っているというのはとても珍しいことなのです。
版木の展示ケース横のタブレットでは、一色ずつ色がついていく様子がわかる「摺りのプロセス」の動画を見ることができます。
浮世絵版画は、版元が企画して販売する商品でしたので、費用対効果や時間対効果が重視されました。
全紙(紙を漉いたまま、裁断していない最大のサイズ)を半分にしたり、それをさらに半分にしたりと、紙の無駄が出ないように、浮世絵版画のサイズは工夫されていましたが、こちらは《大判》と呼ばれ、倍大判(縦約39cm、横約53cm)を縦に1/2にしたサイズの作品です。
| 葛飾北斎「新版浮絵浦島竜宮入之図」 天明(1781-89)頃 すみだ北斎美術館蔵 後期展示 |
同じく後期に展示される葛飾北斎「あづま与五郎の残雪」「伊達与作せきの小万夕照」は、左右の絵につながりがありませんが、これは《二丁掛》と呼ばれた、1枚の版木に2図を摺って、摺り上がった後で2つに裁断して販売するものだったのです。
なんと大胆は発想なのでしょうか!
| 葛飾北斎「あづま与五郎の残雪」「伊達与作せきの小万夕照」享和(1801-04)頃 すみだ北斎美術館蔵 後期展示 |
浮世絵版画は、版元・絵師・彫師・摺師の四者が共同で制作したものですので、摺師の職人技も見どころのひとつです。
前期には、作品の上辺と下辺のぼかしの幅が異なる2点の葛飾北斎「雪月花 隅田」が並んで展示されています。
これは、ぼかしの技法のひとつ《拭きぼかし》と呼ばれる、摺師が版木の上に乗せた絵の具を濡らした布で板上に広げて摺る技法で、ぼかしの幅には差が出てくるのです。
どちらが好みかその場で比較してみてはいかがでしょうか。
| 葛飾北斎「雪月花 隅田」天保(1830-44)初期頃 すみだ北斎美術館蔵 前期展示 |
浮世絵版画は、江戸の人々に身近に存在していたので、江戸の日常が描かれていたり、宣伝や広告のチラシにも用いられていました。
| 葛飾北斎「覗機関」寛政6-9年(1794-97) すみだ北斎美術館蔵 通期展示 ※半期で同タイトルの作品に展示替えをします |
覗機関(のぞきからくり)とは、箱の中の絵を覗き穴からみる機器で、絵を立体的に見せる工夫がされたものでした。
この作品は今回の企画展のメインビジュアルになっていますが、後ろ姿だけで、物珍しそうに覗き込む子ども達の気持ちを表現してしまうところは「さすが北斎!」と思わずうなってしまいました。
商品の宣伝や広告にも浮世絵版画が使われていることは初めて知りました。
この作品は、海苔の宣伝用チラシなのです。
海苔漁の風景を北斎が手がけ、宣伝文句は戯作者の柳亭種彦が書いていますが、ふたりはお互いの家を行き来して遊ぶ友達だったそうです。
ほかにも、《組上げ絵》や《立版古》と呼ばれた、切り取って組み立てることができる江戸のペーパークラフトもありました。
切り取って組み立てる版画作品だけでなく、実際に組み立てた作例も展示されています。
(葛飾北斎「しん板くミあけとうろふ ゆやしんミせのづ》」化(1804-18)中期頃 埼玉県立歴史と民俗の博物館蔵 通期展示)
明治時代に入ると、庶民に向けて様々な情報を発信してきた浮世絵版画は、その役割を写真や新聞に徐々に譲り渡していきました。
それでも、本来はライバルであるはずのカメラを題材にした作品を作ってしまうところに浮世絵版画のしたたかさを感じました。
こちらは、「明治のカメラ女子」を描いた「開花人情鏡 写真」です。
| 豊原国周「開花人情鏡 写真」明治11年(1878) すみだ北斎美術館蔵 前期展示 |
明治以降の浮世絵版画では、今やどこの美術館で展覧会が開催されても多くの人が訪れるほど人気が高い、「光線画」の小林清親、新版画の川瀬巴水、吉田博の作品も展示されています。
そして今回の企画展の最大のサプライズは最後にやってきました。
「今」を題材に浮世絵版画を制作している絵師のひとり、石川真澄さんの「接吻四人衆大首揃」(平成27年(2015) UKIYO-E PROJECT)です。
描かれているのは、アメリカの人気ロックバンド「KISS」の四人のメンバー。
四人ともトレードマークのメイクで、コスチュームは忠臣蔵の衣裳、ベースのジーン・シモンズはちゃんと長い舌を出しています。
この作品を見ていたら、以前KISSのコンサートに行った時のことを思い出して、「デトロイト・ロック・シティ」の派手なイントロが聞こえてくるように感じられました。
ミュージアムショップでは展覧会リーフレットが発売中です(税込350円)。
展覧会の構成に沿って、オールカラーで見どころがコンパクトに紹介されているので、鑑賞のおともにぜひ!
いつも欠かさないことですが、帰る前に4階『北斎を学ぶ部屋』で北斎さんにごあいさつ。