東京・南青山の根津美術館では、特別展「舞楽装束 —受け継がれる染織の美―」が開催されています。
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| 展覧会チラシ |
今回の特別展は、時を超えて今日まで守り伝えられた舞楽を彩る装束の美が見られる展覧会です。
展示室内に入ってすぐに感じたのは、とても明るくて華やいだ室内の雰囲気でした。
きらびやかな舞楽装束を見ているうちにとても心地よい気分になってきましたが、それだけでなく展示室内をめぐりながら、舞楽装束は常装束はじめ3種類+その他に分類できること、10世紀には中国系の左方(左舞・唐楽)と朝鮮半島系の右方(右舞・高麗楽)の二つの系統に大別する整理が進んだこと、応仁の乱以降の戦乱で舞楽をはじめとした雅楽が大打撃を受け、その後、朝廷や権力者たちによって復興して現代に受け継がれていることなど、今回の展覧会を通じて多くの学びがあったことも大きな収穫でした。
それでは、開幕前に開催された記者内覧会に参加しましたので、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2026年10月24日(土)~11月23日(月・祝)
休館日 毎週月曜日(ただし11月23日(月・祝)は開館)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館30分前まで)
入館料 オンライン日時指定予約 一般 1600円、学生(大学生以上) 700円
※障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、高校生以下は無料
※当日券は上記料金に一律200円プラス
※学生料金の適用ならびに高校生以下の無料入館の際は、学生証の提示が必要
展覧会の詳細、関連イベント、チケットの購入方法等は同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.nezu-muse.or.jp/
※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は記者内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。
展示構成
プロローグ
Ⅰ 中世の舞楽装束
高野山天野社の舞楽装束—中世染織の粋を今に伝える—
描かれた舞楽—宮廷の舞絵を偲ぶ—
現存最古の金襴裲襠と謎の裲襠裂—その伝来に迫る―
麗しき異国の王の舞-陵王の装束を分解する—
Ⅱ 近世の舞楽装束
四天王寺の舞楽装束—天下統一を果たした豊臣家の文化事業―
輪王寺の舞楽装束—近世舞楽装束の最高峰―
エピローグ
プロローグに展示されているのは、平安時代前期の舞楽などが描かれた「信西古楽図」で知らる画巻の写本で、多くの写本が残されている中、現存最古のものと考えられる白描の《舞絵》です。
伝承が廃れた曲が描かれていたり、「羅陵王」など現在とほぼ変わらない装束の曲も描かれていて、中には曲は廃れても装束が素晴らしいので「太平楽」に転用された「秦王破陣楽」の装束も見られます。このようにとても貴重な史料なのですが、コミカルなポーズをした演者もいて、楽しみながら見ることができました。
| 舞絵 室町時代 14~15世紀 京都・陽明文庫蔵 |
中世には多くの寺社で儀礼の荘厳のため舞楽奉納が行われました。
今回展では、中世舞楽装束の代表例として高野山天野社伝来品が展示されています。
| 展示風景 |
ふと目に留まったのが、重要文化財《蛮絵袍 標地獅子丸模様》。
蛮絵とは鳥獣を丸く図案化した意匠のことで、獅子丸が版木で摺り染められていますが、丸の真ん中の獅子はまるで「赤ちゃん獅子」。とても可愛らしいのです。
舞楽を描いた巻物も、カラーであれば装束の色合いなどもダイレクトに伝わってきます。
《舞楽図巻》は、今年の京都での修理を終えて、修理後初公開となるアメリカ・サンフランシスコ・アジア美術館所蔵の作品です。こちらも冒頭ご紹介した《舞絵》と同じく、現在では失われた中世の宮中における舞楽装束を伝える貴重な史料です。
黄金色に輝くのは舶来の金襴を贅沢に用いた重要文化財《裲襠 紺地二重蔓牡丹唐草模様》。
裲襠(りょうとう)とは袖なしの貫頭衣で、このように糸房をめぐらせたものは毛縁裲襠と呼ばれています。現存最古の金襴製の裲襠です。
| 重要文化財 裲襠 紺地二重蔓牡丹唐草模様 南北朝時代 永和4年(1378)銘 東京国立博物館所蔵 |
舞楽の中でも特によく知られているのは、「陵王」(羅陵王、蘭陵王とも)ではないでしょうか。
| 羅陵王図 伝土佐行秀筆 室町時代 15世紀 根津美術館蔵(植村和堂氏寄贈) |
「羅陵王」は、中国・北斉の蘭陵王長恭は美しい顔をしていたので、戦場に向かう時は味方の士気をあげるためにいつも勇壮な面をつけて兵を鼓舞したという故事にちなんだ一人舞で、この場面は童舞のため面は着けていませんが、出品番号17と19~21の作品を身につけるとこの童子のようになるので、ぜひその場で想像してみてはいかがでしょうか。
| 右が作品番号21 童舞 天冠 鎌倉時代 13~14世紀 東京国立博物館蔵 |
平安時代から室町時代前期まで宮廷芸能としての舞楽などの雅楽は続いていましたが、応仁の乱と長引く戦乱により、宮廷の雅楽は壊滅、楽人は離散し所用具も散逸してしまいました。その後、16世紀後半に天皇の主導で雅楽が復活し、豊臣家をはじめとする権力者の支援も相まって再び華やかさを取り戻したのです。
今回展では、豊臣家の寄進により再興された大阪・四天王寺の絢爛豪華な舞楽装束が展示されています。
| 展示風景 |
政治の中心が江戸に移ると新たな寺社が建立され、関東にも大々的な舞楽装束が整えられました。なかでも、栃木・輪王寺の舞楽装束は、3代将軍・徳川家光によって、寛永13年(1636)の日光東照宮の大造替ならびに徳川家康二十一回忌祭礼に合わせて納められた800点を超える大規模なものでした。
これらは数が多いというだけでなく、細部に至るまで卓越した技が尽くされていてとても貴重なものなので、1983年に一括して重要文化財に指定されました。
| 展示風景 |
そしていよいよエピローグ。
狩野探幽門下の久住守景による《舞楽図屛風》です。
右隻に「太平楽」、左隻に「納曾利」、「蘭陵王」が描かれ、舞人や楽人たちも生き生きとしているので、目の前に立つと音楽が始まって、舞人たちが踊り出しそうに思えてきます。
展示室5 白描の美
墨を主として描かれる絵画は、濃淡や暈(ぼか)し、抑揚のある描線を駆使する水墨画と、均質な細い線による白描画の大きく二つに分けることができます。
今回のテーマは「白描の美」。展示室5には、12世紀から20世紀に至る静謐なモノクロームの世界が広がっています。
下の写真右の毘沙門天は、風になびく衣や火炎からものすごい迫力が感じられました。
展示室6 開炉—冬を迎える—
茶の湯では11月になると、それまで畳の上に風炉を置いていたのが、畳を切って埋め込み式の炉に変わります。展示室6では、「茶の湯の正月」ともいわれる開炉の季節を楽しむことができます。
ミュージアムショップ
ミュージアムショップに入ると、お香の香りがして、 何となく落ち着いた気分になってきました。今回が新発売のオリジナル香「羅陵王」です。
| ミュージアムショップ |
根津美術館のチケットのデザインにもなっている古代中国の青銅器「双羊尊」(殷時代 紀元前13~前11世紀)がモチーフの同館マスコット「そんちゃん」のオリジナルグッズに、今回展からマグカップが加わりました。
来年(2027年)は未年(ひつじどし)。いよいよ「そんちゃん」の出番です。
来年のカレンダーも販売が始まっているので、ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。
国宝・重要文化財を多く含む約50件の今回展出品作品の美しい画像と詳しい解説に加え、雅楽・舞楽の概説や論文も掲載した特別展図録「舞楽装束—受け継がれる染織の美―」もおすすめです。
普段あまり触れる機会のない舞楽装束ですが、そこにはとても魅力的な世界が広がっています。この機会にぜひご覧いただきたい展覧会です。
