2022年10月23日日曜日

東京国立博物館創立150年記念 特別展 国宝 東京国立博物館のすべて 

東京・上野公園の東京国立博物館では、「東京国立博物館創立150年記念 特別展 国宝 東京国立博物館のすべて」が開催されています。



10月18日(火)に開幕してすでに話題沸騰、連日大盛況の展覧会ですが、なにしろ東京国立博物館が所蔵する89件の国宝すべてが12月11日(日)までの間に展示されるのですから、この機会を逃すわけにはいきません。

それでは、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。

※展示室内(フォトスポットを除く)は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別の許可をいただいて撮影したものです。

※所蔵先を記載していない作品は、すべて東京国立博物館所蔵です。

展覧会概要

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」
会 期  2022年10月18日(火)~12月11日(日)~18日(日) 会期延長!
開館時間 9時30分~20時
     ※金曜・土曜日は20時まで開館。(総合文化展は17時閉館)
     ※12月12日(月)は休館。
     ※12月13日(火)~18日(日)は本展のみ9時30分から20時まで開館。
      総合文化展は全日17時閉館。
     ※入館は閉館の30分前まで
休館日  月曜日
※本展は事前予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください⇒特別展「国宝」公式サイト
※会期中、一部作品の展示替えを行います。


見どころ1 史上初!東博所蔵の国宝89件すべて公開!


東博が所蔵する約12万件の美術品の頂点に立つ国宝は89件。
これは、一つの博物館が所蔵する国宝の件数では最多。

会場内では、絵画、書跡、考古、漆工など8つの分野に分けて展示されています。

絵画・筆跡

「絵画」展示風景

平成館2階の第1会場に入ってすぐにお出迎えしてくれるのは長谷川等伯の国宝《松林図屛風》。
10月30日までの展示です。

そして等伯といえば、桃山時代のライバル・狩野永徳。
永徳の作品も見たくなりますが、国宝《檜図屛風》は11月1日から11月27日まで展示されます。

全長約9.5mの国宝《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》は巻替えなしの一挙公開!
こちらも10月30日までの展示です。

国宝《平治物語絵巻 六波羅行幸巻》
展示期間10/18-10/30


「書跡」展示風景


絵画や書跡は保存のため展示期間が限られていて、会期内に展示替えがあります。
他にも展示期間が限られている作品があるので、ぜひ出品目録をこまめにチェックしてみてください!

東洋絵画・東洋筆跡

東博の豊富な中国書画のコレクションはいつも東洋館で楽しませてもらっていますが、こうやって国宝だけが並んでいると壮観です。

「東洋絵画」展示風景


法隆寺献納宝物・考古・漆工

「漆工」の作品は、照明の効果が絶大。
きらびやかな蒔絵や螺鈿が、その輝きを一層増しています。

「漆工」「考古」展示風景

「考古」の《東大寺山古墳出土品》《江田船山古墳出土品》のうち、特別展「国宝」に出ていなものは平成館1階考古展示室に展示されているので、ぜひこちらもご覧ください。

「法隆寺献納宝物」「考古」「漆工」展示


「考古」展示風景



見どころ2 東博所蔵の国宝の刀剣19件を一挙公開、それも通期展示!


国宝の刀剣19件も、一つの博物館としては日本一。
そして、その19件を一つの空間に展示したのも史上初!
平成館2階の第2会場に出現した「刀剣の間」は圧巻です。

刀剣の見どころは何といってもその輝き。
展示ケースにも、照明にも工夫を凝らしているので、ぜひ刃文(はもん)や地鉄(じがね)の輝きをお楽しみください。




「刀剣」展示風景



見どころ3 東博150年の歩みを所蔵作品とともに追体験!


「第2部 東京国立博物館の150年」では、150年を大きく3つの時期に分けて、それぞれの時期に収蔵された作品とともに東京国立博物館の歩みを追体験できる展示になっています。


第1章 博物館の誕生

明治維新後、幕末の戊辰戦争で荒廃していたかつての東叡山寛永寺の広大な敷地、現在の上野公園で行われたのが内国勧業博覧会。
当時の様子をうかがうことができる錦絵や、初期の収蔵品が展示されています。

「第1章 博物館の誕生」展示風景

「第1章 博物館の誕生」展示風景


第2章 皇室と博物館

続いて、「東京帝室博物館」時代に収蔵された皇室ゆかりの名品の数々。

「第2章 皇室と博物館」展示風景

総合博物館として、動植物や鉱物の標本など自然史の資料も収蔵していた時期がありました。
現在、国立科学博物館が所蔵する《キリン剥製標本》はおよそ100年ぶりの里帰り!

「第2章 皇室と博物館」 展示風景

第3章 新たな博物館へ

関東大震災や戦災を経て、戦後、新たな歩みを始めた東京国立博物館は、変わることなく文化財の収集保存を続けています。
この章では、戦後に収集された名品が展示されています。



重要文化財《風神雷神図屛風》尾形光琳筆
展示期間10/18-11/13


尾形光琳に私淑した酒井抱一がこの《風神雷神図屛風》の裏に描いた同じく重要文化財の《夏秋草図屛風》は入れ替わりで11/15-12/11に展示されます(現在は別々の屛風に仕立てられています)。

展示の最後にフォトスポットがあります。
こちらは令和に入って収蔵された《金剛力士立像》。
高さ約2.7mもある迫力の表情に圧倒されそうです。


《金剛力士立像》 通期展示

最後に展示されているのは、切手でもおなじみの菱川師宣筆《見返り美人図》。
こちらは初期の収蔵作品ですが、前に向かって歩きながら、後ろを振り向く姿が、150年を振り返りつつ、将来に向かって新たな一歩を踏み出していくという今回の展覧会にピッタリの作品だと思いました。

《見返り美人図》菱川師宣筆
展示期間10/18-11/13
(11/15-12/11には複製が展示されます)


国宝をはじめ、東京国立博物館の収蔵品の幅の広さ、奥行きの深さが実感できる展覧会です。
この秋おススメの展覧会です!

2022年10月20日木曜日

山種美術館【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳

 東京・広尾の山種美術館では、【特別展】没後80年記念 竹内栖鳳 が開催されています。

展覧会チラシ
(「竹」と「鳳」の一画が猫の瞳の色と同じに
なっているのがアクセントになっています。)




今年は近代京都画壇を代表する日本画家・竹内栖鳳(1864-1942)の没後80年。
今回の特別展は、同館が所蔵する竹内栖鳳作品全26点をはじめ、個人蔵の初公開作品を含む初期から晩年までの作品全37点が出品される10年ぶりの回顧展になります。

あわせて、栖鳳の先人たちや、同時代に活躍した日本画家、栖鳳の弟子たちの作品を通して、江戸時代から昭和までの京都画壇の流れをたどることもできる盛りだくさんの内容の展覧会なのです。

それではさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会概要

会 期  2022年10月6日(木)~12月4日(日)
  ※会期中、一部展示替えあり。
  前期 10月6日(木)~11月6日(日)
  後期 11月8日(火)~12月4日(日)  
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日  月曜日
入館料  一般 1300円、大学生・高校生 1000円、中学生以無料(付添者の同伴が必要)
     障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)一般1100
     円、上記いずれかのうち大学生・高校生900円
     ※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引き、大学生・高校生
      100円引きの料金となります。
     ※複数の割引・特典の併用はできません。
     入館時のオンライン予約も可能です。詳細は山種美術館公式サイトをご覧くださ   
     い。

    お得な相互割引のご案内!
     下記チケットの提示で入館料を100円割引。
     *いずれも対象券1枚につき1名様、1回限り有効。
     *入館チケットご購入時に受付にご提示ください。購入後の割引はできません。
     *他の割引との併用はできません。
     *オンラインチケットは割引対象外。

展示構成
 第1章 竹内栖鳳
 第2章 栖鳳をめぐる人々
   京都画壇の先人たち
   同時代の画家たち
   栖鳳の弟子たち
 特集 国画創作協会-栖鳳が応援した画家たち- 

山種美術館公式サイト⇒https://www.yamatane-museum.jp/

※展示室内は《班猫》を除き撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※掲載した作品のうち、前期後期で展示替えがあるものはその旨を表記しました。


本展限り!《班猫》が撮影できます。

同館所蔵の竹内栖鳳作品の中でも特に人気があるのが、重要文化財《班猫》。
今回に限り特別に写真撮影ができます。
 ※撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限ります。

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924(大正13)年
山種美術館蔵

今回はモデルとなった猫の写真もパネル展示されていますので、ぜひ見比べてみてください!

「班猫チャレンジ」のお知らせ
    山種美術館では、《班猫》にちなんで、毛づくろいをする猫や、《班猫》そっくりな猫
 の写真を募集しています。
  すてきな投稿には山種美術館公式アカウントからリアクションがあるかもしれません。
 ぜひご参加ください!
 
  応募期間:~2022年12月4日(日)
  応募方法:TwitterまたはInstagramでハッシュタグ「#班猫チャレンジ #山種美術館」 
       をつけて投稿すれば応募完了です。


見どころ2 個人蔵の初公開作品はじめ、バリエーション豊かな栖鳳作品が見られます!

今回の特別展では、同館が所蔵する栖鳳作品全26点のほかに、東京国立博物館所蔵の《松虎》(前期展示)と、初公開10点(通期展示8点+後期展示2点)を含む個人蔵11点、全部で38点の作品が展示されます。

そして、《班猫》はじめ可愛い動物たち、国内や海外のさりげない風景、四季のうつろいを感じさせてくれる風物詩、そしてお釈迦様も描かれていて、あらためて栖鳳の画業の幅の広さを感じさせてくれる、バリエーションに富んだ内容になっています。

まずは初公開の個人蔵の作品から。

左から、竹内栖鳳《焦山猛乕》1904(明治37)年、
《釈迦出山図》《立雛図》どちらも1908(明治41)年、
いずれも個人蔵

《釈迦出山図》は、6年も山で修業しても悟りを得られず、憔悴しきって山を下りてきた釈迦の姿を描いた作品。

栖鳳が描いた道釈人物画(道教、仏教に関する人物画)を見るのは初めてでしたが、釈迦の衣のしわ、画面上部の枝ぶりなど、中国南宋の画家、梁楷の国宝《出山釈迦図》(東京国立博物館)を参考にしているのがよく分かります。
栖鳳の中国絵画学習の成果が伝わってくる作品です。

続いて、可愛い動物たち。

猫だけでなく鳥も、蛙も、どれもが可愛く描かれていて、栖鳳の動物たちを見る優しさが伝わってくるようです。

左から、竹内栖鳳《みゝづく》1933(昭和8)年頃、
《風かおる》1937(昭和12)年
どちらも山種美術館蔵 


竹内栖鳳《緑池》1927(昭和2)年頃
山種美術館蔵

下の写真右の《遊鹿》(個人蔵)では鹿の親子が可愛らしく描かれていますが、魚は・・・
「可愛い」ではなく、海から上がったばかりの新鮮で美しい姿が描かれています。


左から、竹内栖鳳《松魚》、《海幸》、《遊鹿》
いずれも1926-42年頃(昭和時代)、個人蔵


そして、動物画と並んで風景画も今回の特別展の見どころのひとつです。


右から、竹内栖鳳《城外風薫》、《潮来小暑》
どちらも1930(昭和5)年 山種美術館蔵

《城外風薫》は中国江南地方の蘇州を描いた作品。
水郷に囲まれ、古い街並みが残る蘇州は、にぎやかで見どころも多くて、とてもいい雰囲気の街でした。
この作品を見ていたら蘇州をはじめとした江南地方にまた行ってみたくなりました。

一見水彩画のように見える淡い色彩の風景画も味わい深いものがありますが、落ち着いた雰囲気の水墨山水の世界にも心を惹かれます。

右から、竹内栖鳳《晩鴉》、《水墨山水》どちらも1933(昭和8)年、
《雨中山水》1932(昭和7)年頃、いずれも山種美術館蔵


この作品のタイトルはそのものずばり《水墨山水》。
墨の濃淡とにじみで表現された世界が何ともいえない透明感を出しています。
小さいですが、画面左に描かれた橋を渡る人物の姿が印象に残りました。

竹内栖鳳《水墨山水》1933(昭和8)年、
山種美術館蔵


見どころ3 江戸から昭和にかけての京都画壇の画家たちの名作が見られます!

関東地方の美術館では京都画壇の画家たちの作品をまとめて見る機会はあまり多くないので、今回の特別展は、江戸時代から明治、大正、昭和にかけての京都画壇の名作を見ることができる絶好の機会です。

江戸時代中期以降、京都画壇の主流を占めたのは円山・四条派でした。

「京都画壇の先人たち」展示風景

円山応挙に学んだ森徹山が描く兎のふわふわした毛並みは、その後の栖鳳をはじめとした京都画壇の日本画家たちにも綿々と引き継がれていることが分かります。

森徹山《兎図》19世紀(江戸時代)
山種美術館蔵

栖鳳が師事した幸野楳嶺も円山・四条派の流れを汲む画家でした。
そして、栖鳳と並んで楳嶺門下の四天王と呼ばれた、菊池芳文、都路華香、栖鳳と同時代に活躍した山元春挙の作品も並んでいるので、それぞれの画家に共通するものと個性の違いを見比べてみることができます。

菊池芳文《花鳥十二ヶ月》1868-1918年頃(明治-大正時代)
山種美術館蔵 前後期で頁替あり



左から、都路華香《萬相亭》1921(大正10)年、
山元春挙《清流》1927-33(昭和2-8)年頃、《曠原放牧図》1916(大正5)年頃
いずれも山種美術館蔵


動物描写では師の栖鳳をしのぐといわれた西村五雲の《白熊》は、オットセイを捕らえる白熊の迫力ある姿を描いています。

画面からは、五雲が京都市動物園で初めて巨大な白熊を見た時の衝撃の強さが伝わってくるようです。

西村五雲《白熊》1907(明治40)年
山種美術館蔵

今回の特集は「国画創作協会-栖鳳が応援した画家たち-」。

第二展示室には国画創作協会創設時の中心メンバーで、栖鳳が教鞭をとった京都市立絵画専門学校の卒業生、土田麦僊、村上華岳、小野竹喬と、のちに同協会に加わった入江波光の作品が展示されています。

村上華岳が描いた「久遠の女性」を見ると、いつもうっとりしてしまいます。

村上華岳《裸婦図》【重要文化財】1920(大正9)年
山種美術館蔵

最後にご紹介したいのは、近代日本画界の東西の巨匠たちの合作《松竹梅》。
この作品は、日本橋・三越で開催された、当時の画壇を代表する日本画家6人による淡交会に出品されたもので、西の栖鳳、東の大観と並び称された東西の横綱と、栖鳳と同じく幸野楳嶺に師事したあと上京して橋本雅邦の門に入った川合玉堂という豪華メンバーの3人がそれぞれが梅、松、竹を描いています。

この中では、玉堂の《竹》に描かれた小鳥たちのしぐさの可愛さに特に心を惹かれました。

横山大観・川合玉堂・竹内栖鳳《松竹梅》
(右から川合玉堂《竹》、横山大観《松》、竹内栖鳳《梅》
1934(昭和9)年 山種美術館蔵


オリジナルグッズも、オリジナル和菓子も、関連イベントも盛りだくさん!

今回は《班猫》をモチーフにしたオリジナルグッズが充実しています。
「オリジナル班猫トートバッグ(税込み1,320円)は新発売!



山種美術館が所蔵する全26点の竹内栖鳳作品が収録された『山種美術館所蔵 竹内栖鳳作品集』(税込み1,100円)も新発売です。




オリジナル和菓子は今回もどれも美味しそう。
ランチメニューもあるので、美術館1階ロビーの「Cafe 椿」にぜひお立ち寄りください。


上の写真一番上から時計回りに、「蓮はな(村上華岳《裸婦図》【重要文化財】)」、「秋の風(竹内栖鳳《柿の実》)」、「ちとせ(西村五雲《松鶴》)」、「えびす鯛(竹内栖鳳《艸影帖 ・色紙十二ヶ月》のうち「鯛(1月)」)、「薫風(竹内栖鳳《風かおる》)」。
(カッコ内はモチーフにした作品。すべて山種美術館蔵)

高級美術複製画(彩美版®)第2弾が新発売!

山種美術館所蔵作品の高級美術複製画(彩美版®)の第2弾は、今回の特別展で展示中の上村松篁《白孔雀》。
ミュージアムショップにも飾られていて、案内パンフレットもいただけます。
ご自宅でも山種美術館所蔵作品をお楽しみください!



【オンライン講演会のお知らせ】

10月22日(土)14:00-15:30にはオンライン講演会が開催されます。

講師:小宮輝之氏(上野動物園 元園長・日本鳥類保護連盟 会長)
「日本画に描かれた動物たち-竹内栖鳳を中心に-」
講演会参加費 1,500円
アーカイブ視聴期間もあります。詳しくはこちらです⇒オンライン講演会

また、過去のオンライン講演会動画のアーカイブも販売中です。詳しくは同館公式サイトをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/


【公募展】Seed 山種美術館 日本画アワード 2024-未来をになう日本画新世代-

山種美術館では、日本画の新たな創造に努める優秀な画家の発掘と育成を目指し、
公募展「Seed 山種美術館 日本画アワード 2024」を開催します。
 詳しくは公募展のサイトをご覧ください⇒Seed 山種美術館 日本画アワード 2024

最後にうれしいお知らせ。

山種美術館がSNSイベント「Museum Week 2022」で『最も反響の大きい文化施設』第3位を獲得しました。

おめでとうございます!

展示も、オリジナルグッズも、関連イベントも、どれも盛りだくさんの展覧会です。
ぜひ会場にお越しください!

2022年10月11日火曜日

三井記念美術館 特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」

東京・日本橋の三井記念美術館では、 平安王朝から現代まで、漆と金銀で彩られた雅やかな蒔絵の美の世界が見られる特別展「大蒔絵展-漆と金の千年物語」が開催されています。

展覧会チラシ

今回の特別展は、静岡のMOA美術館、三井記念美術館、愛知の徳川美術館の3館共同で開催されるもので、3館が所蔵する国宝、重要文化財を含む名品に加え、東京国立博物館やサントリー美術館ほかの逸品も展示されるという、まさに蒔絵の名品が大集結した「大蒔絵展」の名にふさわしい豪華版の展覧会です。

さらに、蒔絵の作品が年代順に並べられるだけでなく、関連する書跡、経典、屏風なども展示され、蒔絵が作られた時代の雰囲気も感じ取ることができる展示になっているのです。

それはさっそく展示室内の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2022年10月1日(土)~11月13日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
     ※会期中、展示替えを行います。
休館日  10月24日(月)のみ
観覧料  一般 1,300円 大学・高校生 800円 中学生以下 無料
展覧会の詳細、各種割引等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒大蒔絵展-漆と金の千年物語

巡回展情報

静岡会場 2022年4月1日(金)~5月8日(日)  MOA美術館  終了しました。
愛知会場 2023年4月15日(土)~5月28日(日) 徳川美術館
     

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

美術館ロビーのこのケース内の作品は撮影可です。
今回は特別展に合わせて蒔絵道具が展示されています。



展示構成
 第1章 源氏物語絵巻と王朝の美
 第2章 神々と仏の荘厳
 第3章 鎌倉の手箱
 第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠
 第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮
 第6章 江戸蒔絵の諸相 
 第7章 近代の蒔絵-伝統様式
 第8章 現代の蒔絵-人間国宝

※解説パネルにQRコードがある作品は、スマホなどでQRコードを読み取ると展示では見えない作品の内部などを見ることができます。
今回の新しい取組みですので、ぜひトライしてみてください!




国宝、重要文化財の蒔絵の逸品が大集合! 

重厚な洋風建築の内装に囲まれて個別展示ケースが置かれているこのゴージャスな雰囲気の展示室1には、国宝や重要文化財をはじめとした平安から鎌倉、南北朝時代までの逸品が展示されています。

展示室1展示風景


中でも注目は、現存最古の絵巻、国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館)。
「源氏物語絵巻」は大規模修理後初めて「大蒔絵展」で公開されるもので、三井記念美術館が今回のリニューアルでLED照明に全面改修されたのと相まって、絵の中の調度品に描かれた「画中画」ならぬ「画中蒔絵」もくっきり見ることができるので、ぜひ近くでじっくりご覧いただきたいです(もしお持ちでしたら単眼鏡ご持参で)。

 国宝 源氏物語絵巻 宿木一(絵) 平安時代・12世紀 
徳川美術館 (10/1~9展示)

※国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館蔵)は期間限定展示です。

   国宝「源氏物語絵巻 宿木一」 10/1-9
   国宝「源氏物語絵巻 柏木一」 10/25-30
   
 上記以外の期間は、日本画家・田中親美の模本が展示されます。
 「源氏物語絵巻」の昭和10年当時の状態を現状模写したもので、本物と見間違えるくらい
 の素晴らしい出来の作品です。
 
 田中親美「源氏物語絵巻(模本)」上巻・下巻(徳川美術館蔵)
   下巻 10/10-23 上巻 10/31-11/13

空海が開いた高野山金剛峰寺が所蔵する国宝「澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」には、燕子花(かきつばた)や沢瀉(おもだか)が咲く水辺に無数の千鳥が舞っていて、極楽浄土を思わせる幻想的な世界が描かれています。
貴重な国宝ですが、ありがたいことに通期展示です!

国宝 澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃 平安時代・12世紀 高野山金剛峯寺 
画像提供:高野山霊宝館

後期(10/25-11/13)には同じく高野山金剛峰寺が所蔵する重要文化財「花蝶蒔絵念珠箱」も展示されるので楽しみです。


時代とともに向上する蒔絵の技法

毎回メインの一品が展示される展示室2には、和歌山の熊野速玉大社所蔵の国宝「桐蒔絵手箱」(南北朝時代・14世紀)が展示されています。10月30日までの展示です。

展示室2展示風景 
国宝「桐蒔絵手箱」南北朝時代・14世紀 熊野速玉大社
展示期間:10/1-30

シックな照明やカーテンを背景に、金粉を一面に蒔いた手箱が燦然と輝いています。
鎌倉時代に蒔絵粉を造る技術が向上して、丸くてきれいな「丸粉」を造れることができたので、一層鮮やかな輝きを放つようになったのです。

この手箱に収められていた内容品は手前の展示室1に展示されているのであわせてご覧ください。

蒔絵と螺鈿のコラボが見事な鎌倉時代の逸品、国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は後期に展示されます。

国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱 鎌倉時代・13世紀 サントリー美術館 
(10/25~11/13展示)

展示室4に移ります。

展示室4展示風景

室町時代の蒔絵は、和歌や能を題材にした意匠が多く見られるのが特徴です。


重要文化財 砧蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 
東京国立博物館 Image: TNM Image Archives (10/1~30展示)

銀を嵌め込んだ満月に照らされる秋草と枕。
そして、枕に描かれているのは、悪い夢を食べるとされている獏(ばく)。
獏は髙蒔絵という、レリーフのように盛り上げた技法で表現されています。

秋草や岩には文字が隠され、蓋の裏側には砧を打つ人物が描かれていて、この図柄や歌文字から『千載和歌集』の俊盛法師の歌があらわされています。
展示では蓋の下に鏡があるので、蓋の図柄も見ることができます。

展示室4「第4章 東山文化-蒔絵と文学意匠」展示風景
右が重要文化財「砧蒔絵硯箱」


桃山時代には、戦乱後の復興建設ラッシュで室内の調度品の需要も大きく増え、研出蒔絵のように乾燥に時間がかかるものでなく、黒漆の表面に金粉を蒔く平蒔絵など、時間のかからない技法で蒔絵の作品が大量生産されました。

「高台寺蒔絵」といわれ、秋草などの大ぶりの柄が特徴で、表にも側面にもあちこちに蒔絵が描かれるものが流行しました。

重要文化財 秋草蒔絵歌書簞笥 桃山時代・16世紀 高台寺
 (10/1~23展示)


京都における豊臣秀吉の居城・聚楽第を描いた「聚楽第図屏風」(三井記念美術館 通期展示)も展示されているので、聚楽第の中でも蒔絵の調度品が多く使われていたのではと想像しながら桃山時代の新しい息吹を感じることができました。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

桃山時代のもう一つの特徴は、西洋から来日したキリスト教宣教師や商人に人気を博した、華やかな図柄の蒔絵が全体に描かれた祭礼具や家具で、「南蛮漆器」と呼ばれ多くが海外に輸出されました。

こちらも「南蛮人渡来図屏風(左隻)」(MOA美術館 通期展示)が並んで展示されているので、西洋と東洋の文化が邂逅する様子が伝わってくるようでした。

展示室4「第5章 桃山期の蒔絵-黄金と南蛮」展示風景

順番が前後しましたが、国宝の茶室「如庵」を再現した展示室3は、いつもの侘び寂びの世界とは様相が異なり、室町時代の蒔絵とコラボした華やかな能のしつらえ。

展示室3展示風景

二代将軍・徳川秀忠の娘・和子が後水尾天皇のもとに女御として入内(じゅだい)した時の行列が描かれた重要文化財「東福門院入内図屏風(左隻)」(三井記念美術館 通期展示 上の写真後方)も展示されているので、展示室4に展示されている江戸時代の御用蒔絵師・幸阿弥長重の婚礼調度の作品(下の写真)とあわせて華やかな雰囲気を感じとることができます。

展示室4「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


続いて、琳派や江戸の名工たちの世界が広がる展示室5へ。

展示室5「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

東京国立博物館でも人気の尾形光琳作・国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」は前期(10/1-23)展示です。

国宝 八橋図蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・17~18世紀
 東京国立博物館(10/1~23展示)

加賀・前田家の御用蒔絵師、五十嵐道甫作と伝わる江戸時代初期の名品、重要文化財「秋野蒔絵硯箱」も前期展示(10/1-23)です。

三日月に照らされる秋の草花を、金髙蒔絵、金銀の切金、螺鈿、珊瑚などを用いて描いた豪華な硯箱。
展示室では蓋の下に鏡を置いて展示されているので、蓋の裏に描かれた山水図も見ることができます。


 重要文化財 秋野蒔絵硯箱 伝 五十嵐道甫作 江戸時代・17世紀
 (10/1~23展示)



人々の暮らしに広まる蒔絵の文化

18世紀以降には、高価だった蒔絵も印籠、櫛や簪(かんざし)、盃などの庶民の日々の暮らしに使う小品にも広まってきました。

浮世絵と並んで印籠や櫛などが展示されているのは展示室6。
浮世絵の女性は、髪に蒔絵で図柄が描かれた櫛をさしています。

この展示室6は、作品との距離が近く、印籠などに細かく描かれた図柄もよく見ることができるので、いつもありがたく思っています。

展示室6「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景

江戸時代後期に流行したのが、蒔絵師・原羊遊斎と酒井抱一のコラボ作品。
酒井抱一の掛軸(「藤蓮楓図」MOA美術館 通期展示)が、今でいう「人気ブランド」の箱や盃に色を添えています。

展示室7「第6章 江戸蒔絵の諸相」展示風景


近代から現代へ、脈々と生き続ける蒔絵の美の世界

明治に入ると、政府の殖産興業政策のもと、欧米への輸出用に蒔絵の制作が行われるようになり、帝室技芸員制度が美術工芸作家の保護と制作奨励を支えました。

展示室7「第7章 近代の蒔絵ー伝統様式」展示風景



幕末・明治期の漆の代表的な名工、柴田是真の作品も展示されています。

五節句蒔絵手箱 柴田是真作 江戸~明治時代・19世紀 サントリー美術館
 (10/1~23展示)


フィニッシュは、昭和30年代から平成にかけての蒔絵の作品。

展示室7「第8章 現代の蒔絵-人間国宝」展示風景

今回の展覧会での最新作はこちら。
中はオルゴールになっていて、展示室では蓋を開けた状態で展示されているので、中の構造まで見ることができます。

 蒔絵螺鈿丸筥「秋奏」 室瀬和美作 平成29年(2017) ポーラ伝統文化振興財団


ミュージアムショップも秋色一色!

巡回する3館全体の作品がオールカラーで紹介されていて、作品や蒔絵の技法などの丁寧な解説も収録されている『展覧会公式図録』や、蒔絵の図柄のマグネットなど展覧会オリジナルグッズも充実しています。
現代作家さんたちの蒔絵の作品も販売中!

ミュージアムショップ

展覧会は11月13日まで。展示替えもあります。
平安時代から現代まで脈々と続く日本の伝統の美の世界をぜひお楽しみください!