会場には16時前に到着しました。
特別鑑賞会の開始は閉館後の17時からでしたが、それまでは一般のお客さんと同じように鑑賞できるとのことでしたので、受付で参加費を払い、館内を1階から順番に回ることにしました。
岡田美術館には初めて来ましたが、1階に入ってすぐにその所蔵作品の充実ぶりに圧倒されました。1階には中国古代の青銅器、唐三彩、宋から清までの陶磁器がずらりと並んでいて、まるで今年7月に行ったばかりの台北故宮博物院に迷い込んだような気分です。
展示室は5階まであって、他にも日本の土偶や埴輪、桃山・江戸時代の絵画、平安・鎌倉時代の仏像はじめジャンルも幅広く、じっくり見ていたら時間がいくらあっても足りないのでは、と思うほどでした。
館内を回っていたらあっという間に1時間が過ぎたので、受付で資料をいただき、集合場所の5階ホールに向かいました。
特別鑑賞会の式次第
17:00~17:10 5階ホールで参加者を前に青い日記帳主宰のTakさんと岡田美術館副館長
寺元晴一郎さんのご挨拶
17:15~18:00 寺元副館長のギャラリートーク(2階、4階)
18:05~18:20 岡田美術館チョコレート マスターシェフ 三浦直樹さんの新作チョコレート
発表会&試食会。
18:20~19:30 全展示室の自由観覧・展示室撮影タイム(展示室は19時まで)
はじめにTakさんから「ようこそ箱根にお越しいただきました」との歓迎のご挨拶。
(こちらの方こそ、お招きいただきありがとうございました。)
寺元副館長からは、琳派400年を記念して開催される「箱根で琳派大公開」の概要についてのお話がありました。
今回の特別展は、前半(2015年9月5日~12月15日)が京琳派で、宗達・光悦・光琳の作品が中心、後半(2015年12月19日~2016年3月31日)は江戸・大阪の琳派で、抱一、其一、芳中の作品が中心です。
このあとは、参加者全員が2階に移動して、寺元副館長のギャラリートーク。
美術作品の見方や購入されたときのエピソードなどをご披露いただき、とても楽しい解説でした。
まずは2階から。
仕切りもなく広々としたフロアーの正面に、暗がりの中から浮かび上がってくるのは
尾形光琳「菊図屏風」(岡田美術館蔵)。
この屏風は個人蔵で東博に寄託されていたものを購入されたとのこと。
個人蔵だとなかなか一般の人に公開する機会はないのですが、こうやって美術館蔵になると定期的に展示することができる、と寺元副館長はお話されていました。
(おかげさまで私たちも見ることができます。本当にありがとうございます)
(おかげさまで私たちも見ることができます。本当にありがとうございます)
写真ではわかりませんが、近くで見ると横長の紙をつないだつなぎ目が見えます。
寺元副館長から、
○ この屏風は5枚の紙をつないでいますが、時代を下るほど紙すきの技術が進歩して幅広の紙
をすくことができたので、紙すきの幅が広いほど時代が新しく、狭いほど時代が古いという見方
ができます。
○ この屏風は5枚の紙をつないでいますが、時代を下るほど紙すきの技術が進歩して幅広の紙
をすくことができたので、紙すきの幅が広いほど時代が新しく、狭いほど時代が古いという見方
ができます。
○ 金箔も、時代が新しいほど薄く広げる技術ができたので、古いほど金箔の升目が小さく、
また、角がつぶれないよう重ねたあとが見えます。
といった解説をいただき、あらためて屏風を見て、なるほど、とうなずきました。
他にも、
○ 菊の花びらはハマグリを砕いた胡粉で盛り上げていますが、薄墨を塗った上に胡粉を塗って
いるので、この菊は少し黒っぽく見えます。
○ 葉脈の細い線は金泥です。細い線を金泥でなく截金で表現する絵もありますが、金泥と截金
の違いは、金泥は筆のあとが見えるのに対して、截金はへらで押していくので、どこかで切れ目
が見えるところです。
といった具合に、美術作品を味わうための細かな視点まで解説いただきました。
はじめは俵屋宗達下絵・本阿弥光悦書「謡本」(岡田美術館蔵)。
この謡本のシリーズは、雲母摺(きらずり)文様の表紙に絵入りの題簽(だいせん)を貼ったもので、表紙・題簽の下絵は宗達初期の作品と考えられています。
全巻は手放さない、との元の持ち主の方のご意向で、半分だけ買い取ることができ、残りの半分は京博に所蔵されているとのことです。
(写真では全体を写しているのでよくわかりませんが、作品の素晴らしさは実際に近くでじっくりご覧になってください)
続いて俵屋宗達下絵・本阿弥光悦書の「花卉に蝶摺絵新古今和歌巻」(岡田美術館蔵)。
この作品は宗達が木版に金泥、銀泥をたっぷり使っているもので、切断されずに巻頭から巻末まで残っている貴重なもの、とのことです。
寺元副館長が関西にお住いの元の持ち主の方との最後の交渉に出向いたのですが、交渉が成立したのが夜の8時。その後、東名高速を車で戻ってきたのですが、時期は冬、あいにくの大雪で関ヶ原のあたりで行く手を阻まれ、パーキングエリアで雪が収まるのを待っていたとき、大事な作品を積んでいるのでトイレにも行かれなかった、この作品を見るたびに美術作品を入手する苦しみを思い出す、としみじみお話されていたのが印象的でした。
寺元副館長さんはじめ、岡田美術館の皆さんのこういった努力があるからこそ私たちも素晴らしい芸術作品を見ることができると思うと、ひたすら感謝、感謝です。
掛軸のコーナーでは、一文字風体の説明をいただきました。
上から下がっている細長い2本の紙と、作品の上側と下側の約10㎝幅の紙は同じ紙を使う決まりになっていて、これが一文字風体と呼ばれていますが、掛軸をつくるときにはここにお金をかけるとのことで、高いものでは1㎝あたり5万円もするそうです。
俵屋宗達下絵・本阿弥光悦書 柳に波下絵和歌色紙「はるごとに」(岡田美術館蔵)
こちらは今年の1月21日から2月2日まで日本橋三越本店で開催されていた「岡田美術館所蔵 琳派名品展」の入ってすぐのところに展示されていた尾形光琳「蕨図団扇」(岡田美術館蔵)。
久しぶりの再会です。
この掛軸は、琳派好みの植物を描いた、光琳を見つめる基準となる作品とのこと。
この作品を買受けたときには、絵の上下だけがくるくる巻かれ、平たい箱に入っていたとのことです。そのため絵の部分の色が剥落をまぬがれました。
ここからは光琳の弟・尾形乾山の陶磁器のコーナー。
こちらは尾形乾山作・光琳画の銹絵白梅図角皿(岡田美術館蔵)。
乾山は光琳が絵を描く皿は、お兄さんの絵を見えやすくするため、縁の部分を低くしたとのことです。
こちらはニューヨークで入手して、帰りの飛行機ではファーストクラスに乗せて持ち帰ってきたという尾形乾山 色絵宇津山(蔦細道)図角皿(岡田美術館蔵)。
蔦の細道といえば宗達の「蔦の細道図屏風」(重要文化財 相国寺蔵)を思い浮かべますね。
こちらは新たに重要文化財に指定された尾形乾山 色絵竜田川文透彫反鉢(岡田美術館蔵)。
この重文の鉢に実際に料理を盛ってみたい、と寺元館長は楽しそうにお話されていました。
ちなみにこの鉢、入手するまで6年半かかったとのことです。
そして特別展の締めくくりは、尾形光琳 雪松群禽図屏風(岡田美術館蔵)。
この屏風は、寺元副館長と岡田名誉館長の出会いのきっかけとなった作品で、光琳の屏風を入手したいという岡田さんに寺元さんがお見せしたもので、初めてこの屏風を見たとき岡田さんは、あまりの素晴らしさに屏風の前でしばらく無言のままじっとしていらっしゃったとのことです。
その後、岡田さんから「美術館をつくりたい」というお話を打ち明けられましたが、東京には出光美術館や根津美術館のように素晴らしいコレクションをもっている美術館があって、それに匹敵するだけの美術館ができるかどうか自信がなかったので、最初はあまりいい返事をしなかったのですが、岡田さんの熱意に「ではこれから美術作品を蒐集して様子を見ましょう」と答えたそうです。
寺元副館長の楽しいギャラリートークが終わり、ふたたび5階ホールに戻ると、机の上には岡田美術館チョコレート マスターシェフ 三浦直樹氏による新作のチョコレートが用意されていました。
これは尾形光琳「菊図屏風」をモチーフにした「ボンボンショコラセレクション 光琳菊図屏風チョコレート」。
左から松茸と南瓜、和三盆糖と胡桃、安納芋とサフラン、柚子とマスカルポーネ、宇治抹茶と黒豆といった意外な取り合わせのチョコレート5種類で、どれも美味です。これはミュージアムショップで買うことができます。
飲み物は「菊図屏風」に合わせて、さっぱりとした菊茶でした。
次は自由鑑賞と展示室撮影タイム。
まずは5階ホール横の仏教美術の部屋から。
入口を入ると2体の木造金剛力士立像がお出迎えしてくれます。その横でにらみをきかしているのが四天王さんたち。
木造四天王立像(鎌倉時代前期 岡田美術館蔵)
1階は冒頭にもご紹介した中国古代の青銅器、唐三彩、宋から清までの陶磁器、それに韓国の陶器や日本の埴輪、土偶も展示されています。
2階は先ほど紹介した光琳の「菊図屏風」と日本の陶器、ガラスのフロアで、3階は日本絵画のフロアです。
日本橋三越本店で開催された「岡田美術館所蔵 琳派名品展」でお目にかかった懐かしい作品もあります。(以下の作品はいずれも岡田美術館蔵です)
「岡田美術館所蔵 琳派名品展」に出展された長谷川派「浮舟図屏風」(上)、「誰ケ袖図屏風」(下)
狩野派の作品も展示されています。
狩野派「春夏花鳥図屏風」
狩野元信「四季花鳥図屏風」
江戸中期の代表的な絵師・伊藤若冲もいます。
伊藤若冲「三十六歌仙図屏風」
近現代のコーナーには狩野芳崖や橋本雅邦といった幕末から明治にかけて活躍した狩野派最後の絵師たちの作品も展示されています。
狩野芳崖「高士観瀑図」
橋本雅邦「四季山水図屏風」
そして4階はすでに紹介した特別展「箱根で琳派大公開」のフロアー。
※展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
外に出ると建物の壁面には福井江太郎筆「風・刻」。
この現代の「風神雷神図」の正面には足湯カフェがあり、ドリンクを飲みながら足湯をすることができます。美術館めぐりで疲れた足を癒してはいかがでしょうか。
最後はミュージアムショップ。
ここでは図録『岡田美術館名品撰』と『琳派名品展』(こちらは日本橋三越本店で開催された「岡田美術館所蔵琳派名品展」の図録です)を購入しました。
素晴らしい美術作品を見て心も豊かになり、図録でザックもズシリと重くなり、とても充実したブロガー特別鑑賞会でした。
展覧会の詳細は岡田美術館の公式サイトをご参照ください。
http://www.okada-museum.com/exhibition/
9月18日(金)~20日(日)には琵琶演奏のイベントがあり、小林館長と寺元副館長のギャラリートークがあるので見逃せません。
http://www.okada-museum.com/information/archives/710
後期もがんばって行くつもりです。
ちょうど寒い時期なので、美術館鑑賞のあと温泉につかるのも楽しみです。
本当に素晴らしい美術館です。みなさんもぜひお越しになってください。
そしてぜひ箱根に泊まってください。
(念のため、お出かけ前に箱根山の火山情報をご確認ください。)