とてもいい雰囲気の展示室 |
パリの風景、日本の風景、異国の風景、日常の風景、さらにシュールな心象風景、会場いっぱいにさまざまな風景が広がっていて、私たちを小さな旅へと誘ってくれます。
展示室内は、今回の展覧会を担当された主任学芸員の中島啓子さんにご案内いただきました。
「当館では毎年1回コレクション展を開催していて、今回のテーマは『風景』。今までのテーマではあまり展示する機会のなかった”秘蔵”の作品も多く展示されています。」と中島さん。
次にいつお目にかかれるかわからない作品が展示されているとなると見逃すわけにはいきませんね。
第1章 フランスのエスプリ
入口を入ってすぐの部屋に展示されているのはフランスの画家たちの作品。
「第1章は主にパリを中心に活躍した画家の作品です。ユトリロを除いて1960年代の画家たちの作品で、戦前のパリの良さを描いています。戦時中のナチス占領からの解放感からどの作品も温かい色を使っています。」
第2章は、損保ジャパン日本興亜美術館の所蔵作品の中心をなす東郷青児のコーナー。
「東郷青児は、欧州や南米を旅行して多くの旅のスケッチを残しています。映画「ローマの休日」で有名になったローマの「スペイン広場」も描いています。確立したスタイルを変えようとした意欲作「古城」もぜひご覧になってください。」
第3章 日本の風土
こちらのコーナーにはポスト印象派に傾倒した岸田劉生や有島生馬、そして東山魁夷をはじめとした日本画も展示されていて、さまざまな日本の風景が広がっています。
第4章 異国の魅力
第4章は私の一番のお気に入りのコーナー。
中でもよかったのが後藤よ志子「白夜の街Ⅰ」(下の写真正面)。今回の展覧会の私の一押しです。
作者は中国の青島出身とおうかがいしたので、映画「恋の風景」で見た青島の古い街並みを描いているのでは、と錯覚してしまいました。
第5章 意識の底の地
シュールレアリズムの作品もあります。
私の二番目のおススメは矢元政行「極楽塔」(一番右の作品)。いったい何人の子どもたちが描かれているのでしょうか。
第6章 日常の向こう側
「このコーナーは他のどこにも属さない”余った人たち”のコーナーです(笑)。」と中島さん。
「でも私はここがお気に入りのコーナーで、このコーナーを作っているときに展覧会のタイトル『風景との対話』が頭の中に思い浮かんできました。たとえばキッチンで鍋を見ると、笠井さんの作品「二つの卓上生物」(下の写真左)を思い浮かべるとか、日常の中によみがえる記憶との対話ができる作品を展示しています。」
第7章 世界の感触
「このコーナーも余った人たちの作品ですが、第6章の作品とは合わない作品が展示されています。」と中島さん。
「その違いは作家の生きた世代がもっているテーマだと思います。1960年代に学生運動を経験して、一度カンバスを放棄した人たちが絵を描くことにもどってきて、平面に何を表現するか考えた人たちや、現在、20歳代から30歳代の人たちが自分自身の手作業で表現していく作品だったりします。」
「不確かな風景」(櫃田伸也)の前で解説する中島さん |
「WALL(宮里紘規 下の写真右)は過去に開催された美術展のパンフレットを細く切って貼ったものです。パンフレットは古くなると退色してしまうので、保存には困る作品です(笑)。」
第8章 思い出のニューヨーク州
第8章はグランマ・モーゼスのほのぼのとした風景の作品が展示されています。
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「風景との対話 コレクションが誘う場所」は12月25日(日)まで開催されています。
広々とした空間に広がるさまざまな風景。作品一枚一枚それぞれ違った場所に旅をしているような、とても楽しい気分にさせてくれる展覧会です。おすすめです。
詳しくはこちらをご参照ください。
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損保ジャパン日本興亜美術館「風景との対話 コレクションが誘う場所」
(掲載した写真は美術館の特別の許可を得て撮影したものです。)