2017年4月19日水曜日

静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会

4月16日(日)の午後、静嘉堂文庫美術館「挿絵本の楽しみ~響き合う文字と絵の世界~」トークショー&ブロガー内覧会に参加してきました。



「挿絵」とは「文章の間にはさみこまれた絵」。
主体は文章で、挿絵はそれに付随するもの。
はじめはそう思っていましたが、会場内の展示作品を見て考えが変わりました。
「挿絵」そのものがしっかりと自己主張しているのです。

さっそく展示作品の紹介に入りたいところですが、その前に「挿絵本の楽しみ」について、とても参考になるお話をおうかがいできたトークショーから紹介したいと思います。

「挿絵本の楽しみ」トークショー
  ゲスト:永青文庫 副館長  橋本麻里さん
  出演:静嘉堂文庫美術館館長 河野元昭さん
     静嘉堂文庫 司書   成澤麻子さん
  ナビゲーター:青い日記帳  Takさん(中村剛士さん)

はじめに、今回の展覧会を担当された司書の成澤さんから。
 ○ 今回の展覧会を企画するきっかけは、ある作家がインタビューで「(連載小説で)
  挿絵を見てストーリーを変えることがある」と発言されていたのを読んで、「挿絵
  とは何か」と興味をもったこと。
  
続いて橋本さん。
 ○ 現在サントリー美術館で開催中の「絵巻マニア列伝」と比較して展示作品を拝見し
  た。挿絵本と絵巻は、その形態も、目的も、対象とする読者も違う。
   絵巻は個人が楽しむもので、作品は手書きなので一点しかないが、挿絵本は実用的
   で、木版刷りなので多くの人を対象としている。

さらに成澤さん。
 ○ 絵巻物は見て楽しいもの。今回の展覧会では第Ⅴ章がそれに近い。
 ○ 挿絵本の歴史を振り返ってみると、中国では明の時代から物語に絵が入ってきた。
  中国は文字の国なので、それ以前は文字に絵を入れるのに抵抗感があったのかもし
  れない。
 ○ それが変わるきっかけは、宋代に本格化した科挙。貴族だけでなく庶民の若者も
  受験できるようになったが、宮廷での礼儀作法など、庶民では文字だけでは理解で
  きないので、科挙の受験参考書に挿絵を入れるようになった。
 ○ そういった科挙受験者の切実な需要があったから、明代に入って爆発的に絵入りの
  参考書が広まり、それと同時に文字に絵を入れる抵抗感も薄れてきたのではないか。
 ○ さらに明代は経済的にも発展したので、木版を作るための版代、木版を彫る職人
  や摺る職人への手間賃を払えるだけの財力をもった人が出てきたことも挿絵本の発
  展の背景にある。

受験参考書に関連してTakさん。
 ○ 最近では、萌え系のイラストが入っている受験参考書が書店にずらりと並んでい
  て驚かさせれる。(受験生をひき付けるには萌え系も必要かも)

そして河野館長。
 ○ 中国の美術と日本の美術を比較すると、中国の美術が日本に入ってきて、それが
  日本化するというパターンが挿絵本にもあてはまる。
   中国では「絵従文主(絵が従で文章が主)」であったが、日本では中国より早い動き
  で「絵主文従」になり、それが錦絵や浮世絵に発展していった。
   そういった意味で、会場に入ってすぐの作品が歌川国貞の錦絵(「新版錦絵当世美人
  合」)というのはとてもいい配置。

橋本さん
 ○ 展示を見て、「本草図譜」をはじめとした博物図譜の印象が強かった。江戸の博物
  学は素晴らしい。「本草図譜」は持って帰りたいくらい(笑)。

河野館長
 ○ 18世紀は実証主義の時代。日本では博物学や本草学が発展した。
  ちょうどそのころ出てきた伊藤若冲の絵は、もちろん彼のイマジネーションで描い
  ているが、博物学が背景にある。
   昨年、サントリー美術館で開催された秋田蘭画も、背景には博物学がある。
 ○ 今回の展覧会のサブタイトルは「響き合う文字と絵の世界」。江戸中期に流行した
  文人画は、当時、まず賛を読んでから絵を見るようにと言われていたが、現代人に
  は読みづらい。そこで、「おしゃべり館長による戯訳」を作ってみたので参照いた
  だきたい。
  (「おしゃべり館長による戯訳」は受付でいただくことができます。賛が現代語訳に 
   なっていて、とてもわかりやすいです。)
 ○ 静嘉堂文庫に所蔵されている古典籍は約20万冊で、内訳は漢籍が12万冊、和書が8
  万冊。その中から楽しい本が選ばれているので、一人でも多くの人に見ていただきた
  い。

約1時間の楽しいトークショーの後は、成澤さんの解説によるギャラリートーク。
展示は、会場入口の「錦絵の中の文字」に始まり5つの章に分かれています。

「新版錦絵当世美人合」の「粂三きどり」(右)と「杜若きどり」(左)

Ⅰ 神仏をめぐる挿絵
 『妙法蓮華経変相図』は「法華経」を絵解きしたもので、仏さんたちも人物もユルキャラ系のお顔でとても親しみがもてます。本邦初公開。ぜひアップで細部までじっくりご覧になってください。

Ⅱ 辞書・参考書をめぐる挿絵
 トークショーで成澤さんが解説されていた科挙の参考書がずらり。当時の科挙受験者たちの受験勉強の過酷さがしのばれます。



Ⅲ 解説する挿絵
この章は博物学のコーナー。
右が和時計やからくり人形の仕組みを図説した「機巧図彙」、左がトークショーで話題になった「本草図譜」。色が鮮やかです。


大ファンの賢江祥啓の「巣雪斎図」にも久しぶりにお目にかかることができました。
室町時代に流行した詩画軸(詩と山水画が描かれた掛軸)はこの作品を含めて3点。詩画軸の世界も「響き合う文字と絵の世界」の一部を構成しています。
掛軸に書かれた賛の意味は「おしゃべり館長による戯訳」をご参照ください。

賢江祥啓「巣雪斎図」(左)

重要文化財 渡辺崋山「芸妓図」

Ⅳ 記録する挿絵
こちらは、紀行文や、期せずして漂流した人たちの漂流記のコーナー、江戸時代後期に太平洋を渡ってメキシコまで漂流した人がいたとは。その上、綿密な記録を残していたとは。驚きです。

「環海異聞」

「亜墨新話(初太郎漂流記)」


Ⅴ 物語る挿絵
こちらのコーナーには、伊勢物語や御伽草子などを題材にした絵巻や絵本が並んでいます。



こちらは明代に製作された挿絵本。
「この時代一ミリの幅に5~6本の線を彫るという高度な技術をもった職人の技がいました。その技術が日本に渡って錦絵につながっています」と成澤さん。


そして伊勢物語にちなんだ工芸品も展示されています。
これ単なる印籠ではありません。よく見ると開かれた状態の伊勢物語の本が描かれていて、もちろんそこには挿絵が!。



一つ一つの作品を、細部までじっくり見れば見るほどその作品のすばらしさ、おもしろさがわかる、とても味わい深い展覧会です。
これからは講演会も、河野館長の「おしゃべりトーク」も、列品解説も予定されています。解説を聴けばより一層、作品の味わいが深まります。
詳細は公式サイトをご参照ください。

静嘉堂文庫美術館

売店では「挿絵本の楽しみ」の小冊子も販売しています。
文庫本サイズで、とてもコンパクトなので展覧会の思い出を持ち帰るのにちょうどいいです。




※掲載した写真は、美術館より特別に撮影の許可をいただいたものです。