タイには今まで3回行く機会がありました。
バンコク市内の寺院めぐりはもちろん、チェンマイ、アユタヤー、スコータイといった主だった観光地はおさえ、東北部(イサーン)地方の遺跡めぐりや、カンボジア領にありながらタイ側からしか入れないカオプラヴィハーン遺跡まで足を伸ばして雄大なカンボジア大平原を眺めたりしました。
思い返してみたら、最後にタイに行ったのはなんと18年前。
ずいぶんご無沙汰していましたが、このたびタイの仏像さんや象さんたちがはるばる東京までやって来てくれました。
久しぶりに感じた熱帯の心地よい生暖かい風(もちろん会場内は冷房が効いて快適です)、
そして微笑みの国タイから来た仏像さんたちの笑顔。
とてもゆったりとした気分になれる、暑い夏にぴったりの展覧会です。
みなさんもぜひトーハクでなごんでみてはいかがでしょうか。
さて、展覧会の紹介に移ります。
展示は年代順に5章構成になっています。
第1章 タイ前夜 古代の仏教世界
第2章 スコータイ 幸福の生まれ出づる国
第3章 アユタヤ― 輝ける交易の都
第4章 シャム 日本人の見た南方の夢
第5章 ラタナコーシン インドラ神の宝蔵
第1会場の第1章と第2章は、東京国立博物館学芸企画部主任研究員の猪熊兼樹さん、第2会場の第3章~第5章は同館学芸研究部主任研究員の末兼俊彦さんのギャラリートークでご案内いただきました。
(とても興味深いお話しばかりでしたが、すべては紹介しきれないので、適宜編集しました。ご了承ください。)
「日タイ修好130周年の今年、東京国立博物館として何かできることはないか、と考えて開催した今回の特別展です。」と猪熊さん。
第1会場の入口では《ナーガ上の仏陀坐像》がやさしい微笑みでお出迎え。
猪熊さん
「日本と同じ仏教国でも、仏像の感じは日本とはまったく異なります。そこでこの仏像を入口に展示しました。」
「お顔を見てみると、現代的な顔で端正でハンサムは顔をしていないでしょうか。」
《ナーガ上の仏陀坐像》(バンコク国立博物館) とぐろを巻く蛇の神ナーガの上に座って瞑想する仏陀。 7頭の蛇の頭が仏陀を風雨から守っています。 |
手前が《法輪》、奥が《法輪柱》(ウートーン国立博物館) |
「モン族の国・ドヴァ―ラヴァティー時代(7~11世紀)の仏像は鼻が横に広いのが特徴です。」
《仏陀立像》(バンコク国立博物館) |
「この時代は観音像でなく菩薩像が作られていたのが特徴です。腰をまげたポーズも特徴的です。」
右から《菩薩立像》《菩薩立像》(バンコク国立博物館) 《クベーラ坐像》(クベーラはインド古来の神)(プラパトムチェーディー国立博物館) |
第2章 スコータイ 幸福の生まれ出づる国
猪熊さん
「タイ人最初の王朝・スコータイ朝(13世紀~14世紀)は、タイの文化が定まった時代です。」
「座っている足は重ねるだけで、左手は軽くおなかの前に添えて、右手は下に垂らしています。この右手は悪魔を追い払うポーズで、降魔(ごうま)印と言います。頭にはラッサミーという火炎飾りが乗っているのが特徴です。」
右《仏陀坐像》(ラームカムヘーン国立博物館) 左《仏陀坐像》(サワンウォーラナーヨック国立博物館) |
《仏陀遊行像》(サワンウォーラナーヨック国立博物館) |
「こちらも日本であまり例のない《仏足跡》です。」
《仏足跡》(バンコク国立博物館) |
左《仏陀遊行像・仏足跡》(バンコク国立博物館) 右はインド由来の想像上の怪獣《マカラ像》(カムペーンペット国立博物館) |
タイでは生まれた曜日によって守ってくれる仏像が決まっています。
右のパネルに自分の生年月日を入れると生まれた曜日がわかるようになっているので、ぜひお試しください。
ここからが第二会場。
第3章 アユタヤ― 輝ける交易の都
末兼さん
「こちらの金象はよく見ると首がはずれるようになっているのがわかります。実際にはずしてみると内側には錘がぶら下がった糸が両耳につながっていて、錘が揺れると両耳がパタパタと動く仕組みになっています。とても精巧な作りですが、タイから日本に輸送する側としてはとても神経を使うので、とんでもないことをしてくれたという思いでした(笑)。」
《金象》(チャオサームプラヤー国立博物館) |
「タイでは王権の象徴である5種の神器(冠、靴、団扇と払子、王杖、剣)が代々伝わっていました。こちらは団扇と払子、杖のミニチュアです。」
左《団扇、払子、杖(神器ミニチュア)》(チャオサームプラヤー国立博物館) 右は打ち延ばした金に仏陀や菩提樹を打ち出した《金葉》(チャオサームプラヤー国立博物館) |
「いずれもインドネシア・ジャワ島で制作され、右の鏡はタイと日本との交易の過程で日本にもたらされたもので、豊臣秀吉所用と伝わっています。」
右《素文透入柄鏡》(京都・妙法院) 左《素文透入柄鏡》(チャオサームプラヤー国立博物館) |
16世紀末から17世紀にかけて戦乱の世が治まってくると、タイとの交易も盛んになりました。活躍の場を失った浪人たちもタイに渡り傭兵として重宝がられたとのことです。
末兼さん
「こちらは描かれた年代は幕末ですが、シャムに派遣された朱印船が描かれています。」
手前が《末吉船図衝立》(大阪・杭全神社) 奥は《山田長政奉納戦艦図絵馬写》(静岡浅間神社) 鎧兜をつけた武士たちが甲板上に見えます。 |
《天部形像(白衣観音坐像台座部材のうち)》(京都・萬福寺) |
(「ラタナコーシン」とは「インドラ神の宝蔵」という意味で、現在のバンコク王朝の別名です。)
この大扉だけは写真撮影可能なので、後ろの大きな仏像さん(こちらは写真です)とともにぜひ記念写真を。
末兼さん
「扉の右側は火災で炭化してしまいました。展示している左側も下の方は少し黒ずんでいます。この大扉は住友財団が保存修理費用の助成をしました。大扉の出品が実現したのは、住友財団のご協力によるものです。これは新たな日タイ交流の姿と言えるのではないでしょうか。」
大扉の先に進むと、会場の真ん中にはなんと川の中を進む象が!
もちろん象は模型ですが、象鞍がどのように背中に乗っているかよくわかります。
「タイで象に乗りましたが、とても揺れてこわかったです。」と末兼さん。
私もタイでは象に乗りました。
小さい象だったせいかあまり揺れませんでしたが、乗っている間象にあげるようにバナナの房を渡されて、こちらに向けられた鼻の先にあげると器用にはさんで口に入れいていましたが、あげるのをやめると「バナナをよこせ」とばかりに鼻の先をこちらに向けて息を吹きかけてきたのには驚きました。
象の上に乗っているのが《象鞍》(バンコク国立博物館) |
「私はこれを超・超絶技巧と呼んでいます。」
右《蓮華型銀器》(バンコク国立博物館)、左《香炉》(京都・萬福寺) 近くで見ると本当に凝った装飾がほどこされています。 |
タイ展の見どころや関連イベントは公式サイトをご覧ください。
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タイ展公式サイト
平成館前庭では「トーハク BEER NIGHT」が開催されて、タイ料理の屋台や「樽出し」のシンハービールも出ます(4日間限定です。日程等は上記公式サイトでご確認ください)。
とても素晴らしい展覧会です。
それに関連イベントも充実。
この夏はトーハクでタイにひたってみてはいかがでしょうか。
見逃せない展覧会です。
※掲載した写真は東京国立博物館の特別の許可をいただいて撮影したものです。