9月24日(日)の連邦議会選挙まであと7週間。
メルケル候補(CDU/CSU)は手堅くポイントをかせぎ、対抗馬のシュルツ候補(SPD)を大きく引き離している。
首相候補に内定した今年1月に好スタートを切り、2月には支持率でメルケル候補を抜き、SPD支持率も30%台にまで押し上げて「シュルツ効果(Schulz-Effekt)」ともてはやされたシュルツ候補は、今では何をやってもうまくいかず、かえって「シュルツ損失(Schulz-Defekt)」とまで言われている。
6月25日(日)の党大会では選挙公約を発表したが、劣勢を挽回することはできず、「効果はほとんどゼロ」(ZDF)であった。
ZDF調査「首相としてどちらが望ましいか」( Politbarometer07.07.2017)
1月 シュルツ氏 40% メルケル氏 44% シュルツ候補好スタート
2月 シュルツ氏 49% メルケル氏 38% シュルツ候補逆転
3月 シュルツ氏 44% メルケル氏 44% 両者譲らず
4月7日 シュルツ氏 40% メルケル氏 48% メルケル氏再びリード
4月28日 シュルツ氏 37% メルケル氏 50% メルケル氏リードを広げる
5月19日 シュルツ氏 33% メルケル氏 57% メルケル氏さらにリード
6月2日 シュルツ氏 31% メルケル氏 59% あやうくダブルスコア
6月23日 シュルツ氏 31% メルケル氏 58% メルケル氏堅調
7月7日 シュルツ氏 30% メルケル氏 59% メルケル氏堅調
7月21日 シュルツ氏 30% メルケル氏 59% メルケル氏堅調
ここ2ヶ月はシュルツ候補が30%そこそこ、メルケル候補が60%近くで推移している。
政党別の支持率も大きな変動はない。
「シュルツ首相」はもはや現実味がないように見えてきたが、数字の上でもそれがはっきりしてきた。
「シュルツ候補は首相になることができるか?」
前提条件:SPD主導の連立政権
考えられる連立パターン
パターン① SPD主導の大連立(SPD>CDU/CSU)
パターン② 赤緑連立 SPD+緑の党で過半数
パターン③ 赤赤緑連立 SPD+左派党+緑の党で過半数
7月21日付ZDF調査による政党支持率でシミュレートするといずれも×。
CDU/CSU 40%(±0%)、SPD 24%(±0%)、左派党 8%(-1%)、緑の党 8%(±0%)、
FDP 8%(±0%)、AfD 8%(+1%)、その他
4%(±0%)
(カッコ内は7月7日調査時との増減比較)
パターン① × SPD 24%<CDU/CSU 40%
パターン② × SPD 24%+緑の党 8%=32% <過半数
パターン③ × SPD 24%+左派党 8%+緑の党 8%=40% <過半数2 シュルツ候補、逆風は止まらない
シュルツ候補は、6月25日のSPD党大会で2つの大きな手を打って劣勢を挽回しようと試みた。
一つはシュルツ候補自身のCDU/CSUへの攻撃的な演説。
シュルツ候補「CDU/CSUの選挙戦術は民主主義への攻撃だ!」
これは、メルケル候補が難民政策や欧州政策で明確な態度を打ち出さない姿勢をとらえて、「メルケル候補は『選挙に来なくていいからとにかく私に任せなさい』と言っている。これは民主主義の根幹である選挙をないがしろにするものだ。」と批判したものだ。
これに対して、CDUの副党首の一人、ユリア・クレックナーは「テロリストの発言だ」と厳しく反論し、ゼーホーファーCSU党首は「頭がおかしくなったんじゃないか。」となかばあきれ気味に発言している。
さらにシュルツ候補は「4年間の大連立で、SPDは推進役、CDU/CSUはブレーキ役だった。」と追い打ちをかける。
これは、SPDが主張した最低賃金の導入には2年かかったことなどを指している。
もう一つは、SPD党大会でのシュレーダー前首相の登場。
シュルツ候補は、シュレーダー前首相が進めた経済財政構造改革「アジェンダ2010」を「私たちは過ちを犯した。」と批判したにもかかわらず、立場が苦しくなると、前首相の威厳を借りるというのはご都合主義のような感じもするが、シュレーダー氏は多少老けたものの、以前のような少し鼻にかかった声は変わらず、相変わらずの力強さで演説を行った。
ZDFは驚きをもって“Er ist wieder da“と報じた。
“Er ist wieder da“ (直訳すると「彼が帰ってきた」)とは、現代にヒトラーが甦って世相を痛烈に批判するという小説で、『ヒトラーが帰ってきた』というタイトルで邦訳され、映画化もされて日本でも上映されたのでご覧になった方も多いかと思うが、この場合の彼とはもちろんシュレーダー前首相のことだが、ヒトラーが帰ってきたのと同じくらい驚きをもって迎えられたということだろう。
シュレーダー氏の主な発言は次の二点。
〇 欧州政策でメルケル首相とショイブレ財務相を批判「欧州の分裂を招く」
「マクロン-メルケルでなくマクロン-シュルツ」フランスのマクロン首相が就任直後の5月15日、ベルリンを訪問してメルケル首相と
ショイブレ財務相に面会したとき、シュルツ候補に言わせるとメルケル首相は「ダメ
ッ、ダメッ、ダメッ(ドイツ語でNein、Nein、Nein)」と、マクロン首相の、EU共通の予
算、国債、そしてEU財務大臣の創設の提案に対して「ダメッ」を三回言ったという。
EU懐疑派が勢いづいているフランスでかろうじて勝利したEU擁護派のマクロン首相
をもっと援護しなくては、ということだ。
○ メルケル首相のミュンヘンでの「反米演説」に対して
「メルケル首相はアメリカの孤立化を招きイラク戦争を再現したいのか」
「反米演説」とは、NATO首脳会議、G7でトランプ米大統領と欧州の意見の相違が明
らかになった後、ミュンヘンで行われたCSUの集会で、メルケル首相が「私たち欧州人
は、本当に自らの手で自分たちの運命を決めていかなくてはならない。」と発言したこ
とを指す。
米英軍がイラクに侵攻してイラク戦争が勃発したのは、シュレーダー氏が首相だった
2003年。米英と独仏が対立し、独仏が米英の戦争突入を防げなかったことを指してい
る。要するに自分と同じ過ちを繰り返してはいけない、と警鐘を鳴らしているのだ。
しかしながら、こういった捨て身の攻撃も効果がなかったことは冒頭の世論調査結果で見た通り。
3 選挙公約 SPD対CDU/CSU
6月25日の党大会で選挙公約を発表したSPDに続き、7月3日にはCDU/CSUが選挙公約を発表した。主な選挙公約は次のとおり。
SPDの主な選挙公約
【税 制】 低中所得者の所得税減税、所得税の最高税率を引上げ、
連帯税の所得制限を約60万ユーロに引上げ、将来的には廃止
連帯税の所得制限を約60万ユーロに引上げ、将来的には廃止
【年 金】 2030年まで年金受給水準の維持・掛金率の上昇を抑制
(年金受給年齢の引き上げは否定)
【雇 用】 失業手当Q(資格取得する失業者のために支給期間を延長)
【子育て】 子育て世代の労働時間の縮減
【経 済】 2025年までにGNPの3.5%を技術革新への投資
【治 安】 警察官を1.5万人増員
【難 民】 難民庇護権、人道的な難民政策(アフガニスタンには送還しないなど)、経済的移民の規制
【外 交】 NATOへのGDP比2%負担は拒否、EURO圏全体を統治する組織の新設
【環 境】 2020年までに温室効果ガス排出を1990年比で40%削減。2050年までには80~95%に削減。
CDU/CSUの主な選挙公約
【税 制】 所得税減税、2030年までに連帯税廃止~約1700億円の大型減税、
【税 制】 所得税減税、2030年までに連帯税廃止~約1700億円の大型減税、
子供控除の上限の引き上げ
【住 宅】 人口密集地域での家賃抑制、150万世帯分の住宅新築
【治 安】 警察官を1.5万人増員
【子育て】 終日保育の導入
【雇 用】 2025年までに完全雇用の実現(=失業率を5.5%から3%に)
【国 防】 NATOへのGDP比2%負担に向けて努力
(CSUが求める「難民の上限設定」はメルケル候補の反対で選挙公約には盛り込まれなか
った。)
CDUのショイブレ財務大臣は「CDU/CSUの選挙公約は子育て重視。子育てファ
ーストだ。」と表明した。トランプ米大統領に始まった「○○ファースト」はすぐに
日本に飛び火し、ついにはドイツにまでやってきた。
った。)
CDUのショイブレ財務大臣は「CDU/CSUの選挙公約は子育て重視。子育てファ
ーストだ。」と表明した。トランプ米大統領に始まった「○○ファースト」はすぐに
日本に飛び火し、ついにはドイツにまでやってきた。
次回は両陣営の選挙公約を有権者はどう感じているか見てみたい。
(次回に続く)