2019年4月17日水曜日

ラファエル前派の軌跡展 in 三菱一号館美術館

「美しい、だけじゃない。」

思わせぶりなキャッチコピーが気になる展覧会「ラファエル前派の軌跡展」が東京丸の内の三菱一号館美術館で開催されています。



「ラファエル前派の軌跡展」は、イギリスの社会思想家で美術評論家のジョン・ラスキン(1819~1900)の生誕200年を記念して開催された展覧会。
展示室内には、当時、ラスキンが擁護したターナーやラファエル前派の画家たちの作品、そして自分でも絵を描いたラスキンの作品が展示されています。

入口入ってすぐのターナーの作品も「美しい」。

そしてミレイの作品も、ロセッティの作品も「美しい」。

しかし、キャッチコピーは「美しい、だけじゃない。」。
「美しい」以外に何があるのか?

それでは、先日開催されたブロガー内覧会に参加したときの様子をご紹介しながら、「美しい以外の」何かを探っていきたいと思います。

※館内は一部を除き写真撮影不可です。
※掲載した写真は、美術館から特別に許可をいただいて撮影したものです。

内覧会では、今回の展覧会を担当された三菱一号館美術館学芸員の野口玲一さんと、アートブログ「青い日記帳」主宰のTakさんのトークがありましたので、トークを聞きながら展示室内の作品を見ていくことにしましょう。
(展示の構成上、話の順番を少し入れ替えています。)

Takさん 今回の展覧会は、当初の企画では「ラファエル前派展」ではなかったそうですね。
野口さん きっかけはラスキン生誕200年記念でしたが、19世紀にはよく知られていたラスキンの名前は、現在ではあまり知られていないので、もっと有名なタイトルをつけようということで「ラファエル前派展」としたのです。展示はラファエル前派より広く、ラスキンとかかわりのあった画家の展覧会と言えるでしょう。
Takさん ツィッターでは「ラファエル前派展なのに何でターナーの絵があるの?」とのツィートも見かけますが。
野口さん 当時はきっちり描いている絵が評価されていたので、輪郭のあいまいな絵を描いていたターナーは評判を落としていました。そこをラスキンが擁護したので、ターナーの評価も上がったのです。
Takさん ラスキンあってのターナーということですね。
野口さん そうですね。同時にターナーを評価したラスキンの美術評論家としての評価も高くなったのです。

これでようやく、なぜ展示室に入ってすぐの部屋にターナーの作品があるのかがわかりました。
今回の展覧会は5章構成になっていますが、第1章は「ターナーとラスキン」です。

第1章 ターナーとラスキン
ターナー《カレの砂浜-引き潮時の餌採り》(ベリ美術館)

Takさん ラスキンは絵も描いていますね。
野口さん そうです。ラスキンの作品も多く展示されています。これほど多くのラスキンの作品が見られる展覧会はそう多くはないでしょう。
Takさん さすが「ラスキン展」!(笑)

こちらはラスキンの繊細な素描や著書です。

第1章展示風景(ラスキンの作品)

ターナーを擁護したラスキンの『現代画家論』(Kコレクション)
第2章 ラファエル前派

Takさん  今回の展覧会の第一の見どころは?
野口さん ミレイやロセッティの作品が展示されている一番広い部屋です。

3階の展示室入口を入って、第1章の作品が展示された細長い廊下を通って、突き当りの広い部屋にラファエル前派の画家の作品が展示されています。ここからが「第2章 ラファエル前派」です。
この部屋のレイアウトは、展覧会ごとに特に趣向を凝らした展示をしているので毎回楽しみにしているのですが、今回も期待どおりのおしゃれなレイアウト!
それに、今回の展覧会ではこの部屋全体が撮影可という信じられない大盤振る舞い!
ぜひ来館記念に写真を撮りましょう!

第2章展示風景

第2章展示風景
Takさん ラスキンの教えの影響は。
野口さん ラスキンは自然をよく見ることを重視しました。女性はきれいに、背景の自然も丁寧にというのがラスキンの教えでした。
Takさん 花や植物もよく見ていただきたい、ということですね。花鳥画のDNAを受け継いでいる私たちにとっては受け入れやすいです。

こちらは展覧会チラシにもなったロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のビーナス)》。ラスキンがこの絵について、花の描き方が雑だと批判したので、ロセッティは何回も描き直したのですが、このことがきっかけとなって両者の関係がぎくしゃくするようになりました。花の描き方など近くでぜひご覧になってください。
ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のビーナス)》
(ラーセル=コーツ美術館)
Takさん ラスキンやラファエル前派の画家たちの間ではドロドロした男女関係がありましたね(笑)。
野口さん そうですね(笑)。川べりに女性が座っている作品(ミレイ《滝》)がありますが、これはラスキン夫妻とミレイが旅行に出かけたときの風景を描いたもので、この後、ミレ
イはラスキンの妻エフィと恋仲になり、のちに結婚することになりました。

何もバックグラウンドを知らないで見ると、緑と水に恵まれた自然の中にたたずむ一人の婦人の絵。でもそこにはミレイのよこしまな恋心があったのです。

ミレイ《滝》(デラウェア美術館)


ドロドロした男女関係、人間関係については、「いまトピ~すごい好奇心のサイト」でいまトピアート部のKINさんがコラムを書いているので、こちらをご参照ください。
「美しい、だけじゃない。」というのは、「ドロドロしている部分もある」ということなのでしょうか。まさか!

【スキャンダラスな男女関係!】美男美女揃いのラファエル前派周辺をめぐるメロドラマ

第3章 ラファエル前派周縁

続いて「第3章 ラファエル前派周縁」には、1850年代以降、ラファエル前派が広がりを見せた時期に活動したダイス、レイトン、ワッツほかの作品が展示されています。

第3章展示風景

第3章展示風景

第4章 バーン=ジョーンズ

第4章のタイトルはずばり「バーン=ジョーンズ」。ラスキンに見込まれたバーン=ジョーンズの作品が展示されています。

第4章展示風景
第4章展示風景

Takさん  (1900年から03年にかけて渡英した)夏目漱石もラファエル前派の影響を受けた一人ですね。
野口さん 漱石の小説に登場する女性はラファエル前派のイメージが感じられます。画家では青木繁がラファエル前派の影響を受けています。
Takさん (青木繁が影響を受けて《海の幸》を描いた)人物が並んでいるこの作品が出展されているのはうれしかったです。

バーン=ジョーンズ《「怠惰」の庭の巡礼者と踊る人たち》
(バーミンガム美術館)
第5章 ウィリアム・モリスと装飾芸術

Takさん  後半はウィリアム・モリスの作品が展示されています。
野口さん  19世紀後半に隆盛したアーツ・アンド・クラフツ運動は、社会思想家としてのラスキンとの関わりが深いものでした。
 当時のイギリスは、世界に先駆けて産業革命が進み、大量生産の時代に入ると労働のよろこびが失われてきました。そういった中、ラスキンは、美術を通じてに労働のよろこび、手仕事の美しさを取り戻そうとしたのです。
Takさん そういった時代背景を見てみないとわからないですね。
野口さん 19世紀後半といえば、ヴィクトリア女王の栄光の時代。今はEU離脱問題でもめていますが(笑)、ラスキンの思想の広がり、古きよき時代のイギリス文化を楽しんでいただきたいです。(拍手)

第5章展示風景

第5章展示風景


さてラファエル前派の軌跡展はいかがだったでしょか。
やはり「美しい」だけではない何かがありそうです。
ラスキンを通して、ゴージャスなイギリス文化の雰囲気にひたってみてはいかがでしょうか。

展覧会の概要
会   期   3月14日(木)~6月9日(日)
開館時間  10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
(祝日を除く金曜、第2水曜、6月3日~7日は21:00まで)
休館日  月曜日(但し、4月29日、5月6日、6月3日とトークフリーデーの5月27日は開館)
入館料   一般:1,700円  高校・大学生:1,000円 小・中学生:無料
他にも割引やイベントなどもあります。
詳細はこちらをご覧ください→展覧会サイト

5月7日のトークイベントも新たに決定しました。申込方法は上記「展覧会サイト」でご確認ください。