2019年8月12日月曜日

京都画壇の作品が上野に大集合!~東京藝術大学大学美術館「円山応挙から近代京都画壇へ」

京都画壇の作品が上野に大集合!

東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館では「円山応挙から近代京都画壇へ」展が開催されています。


今回の展覧会は、タイトルのとおり江戸時代中期に京都で活躍した円山応挙(1733-1795)に始まり、明治、大正、昭和初期の近代日本画まで、京都画壇の作品が大挙して東京にやって来るという、これまでにない規模の展覧会。
そして、応挙晩年の襖絵で知られた、兵庫県香住の大乗寺の襖絵も東京で約10年ぶりに公開されるという豪華版。

暑い日が続く今年の夏も各地で美術展が開催されていますが、この「円山応挙から近代京都画壇へ」展は、けっして見逃すことができない展覧会のひとつです。

【展覧会の概要】
会 期  8月3日(土)~9月29日(日)
 前期は9月1日(日)まで、後期は9月3日(火)から
 前期後期で大幅な展示替えがあります。ただし、大乗寺襖絵は通期展示。
開館時間 午前10時~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休館日 毎週月曜日(祝日又は振替休日の場合は開館、翌日休館)
観覧料 一般 1,500円ほか
展覧会公式サイトはこちら→https://okyokindai2019.exhibit.jp/

京都国立近代美術館に巡回します。
会 期 11月2日(土)~12月15日(日)

※撮影した写真は、内覧会で美術館の特別の許可を得て撮影したものです。
※内覧会では、東京藝術大学大学美術館 古田亮准教授、京都国立近代美術館学芸課研究員 平井啓修さんのギャラリートークをおうかがいしました。

さて、豪華な内容の展覧会で見どころいっぱいなのですが、ここからは特におススメしたいポイントを紹介していきます。

ポイント1 贅沢な空間をお楽しみいただけます

美術館入口を入ってまずは3階に向かいます。
全部で4章構成になっている展覧会のうち、最初の章は「すべては応挙にはじまる。」
入ってすぐに私たちの目の前に現れてくるのは、広々とした空間に展示された応挙による大乗寺襖絵《松に孔雀図》。

円山応挙《松に孔雀図》(兵庫・大乗寺)重要文化財
通期展示
照明も凝っていて、朝の光を意識したほの明るいものになっています。角度をかえて見てみると、墨一色で描かれているのに、松の葉は緑、孔雀の羽根は茶色に見えてくるから不思議です。
まずはこの贅沢な空間で応挙最晩年の傑作をゆったりとお楽しみください。

通期展示される大乗寺の襖絵は、上から見るとX型になっている展示ケースに展示されています。ということは襖絵の両面が見られるということ。
順路にしたがって左から回ると、呉春《群山露頂図》、山本守礼《少年行図》、呉春《四季耕作図》と続きます。
上の写真右側、立派な姿の松の後ろに描かれているのは呉春《四季耕作図》。

呉春《四季耕作図》(兵庫・大乗寺)重要文化財
通期展示

円山応挙とその弟子たちが描き、165面が重要文化財に指定されている大乗寺客殿の襖絵は現在では収蔵庫に収めれられ、レプリカに置き換えられているので、今が本物を見ることができる絶好のチャンスです。

さて、大乗寺の客殿は、中央の仏間の持仏、十一面観音を中心として四方を四天王が守護するという仏教的な意味をもった立体曼荼羅になっています。
なぜ正面に孔雀が描かれているのか、正面から見て右側になぜ農耕の絵が描かれているのか、それぞれ意味があるのですが、それは大乗寺の山岨眞應(やまそばしんのう)副住職の音声ガイドのスペシャル解説でお聞きください。
音声ガイドは1台550円、ナビゲーターは声優の羽多野渉さん、解説ナレーションは藤村紀子さんです。

地下2階の会場に移って3つめの章「山、川、滝。自然を写す。」。風景画のコーナーです。(説明の都合で順番は前後しますが、実際の順路は3階→地下2階です。)
ここでのおススメは明治から昭和初期に京都で活躍した木島櫻谷の《山水図》。

木島櫻谷《山水図》(株式会社 千總)
前期展示
写真でおわかりになりますでしょうか。
この展示ケースは両側が手前に向かって少しカーブしています。
雄大な景色の《山水図》が、まるで見る人を優しく包み込むように迎えてくれるのです。今回の展覧会のために特注されたというこの展示ケース。演出効果は大きいです。
後期には川の流れが迫力たっぷりの円山応挙《保津川図》(重要文化財)が展示されるので、こちらも楽しみです。

ポイント2 見たままをお楽しみいただけます

円山応挙は当時としては珍しく「写生」を重んじました。
今では当然のことなのかもしれませんが、形式を重んじる狩野派、土佐派、住吉派が主流だった時代に「写生」は革新的なことだったのです。
そして、「写生」であれば、自然を見たままに描くので、見る人たちは時代的な背景や中国の故事を知らなくても楽しむことができたのます。

3階の展示室に戻ります。

2つめの章は「孔雀、虎、犬。命を描く。」。動物たちのコーナーです。

虎といえば岸駒に始まる岸派。幕末から明治期にかけて活躍した岸竹堂の迫力ある《猛虎図》がお出迎え。
岸竹堂《猛虎図》(株式会社 千總)
前期展示
下の写真右は応挙の弟子・長沢芦雪の《牡丹孔雀図》。
奔放な性格の芦雪でしたが、師・応挙に負けないくらいの立派な孔雀を描いています。奔放といっても技量は確かでした。
でも芦雪らしい遊び心も見逃せないです。
画面中央右の白い花の下には蜘蛛の巣がかかっていますが、蜘蛛は描かれていません。画面右下の雀が蜘蛛をくちばしでくわえているのです。
右から長沢芦雪《牡丹孔雀図》(公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館)、
奥文鳴《寒塘水禽図》(敦賀市立博物館)、都路華香《雪中鷲図》
いずれも前期展示
岸派の祖、岸駒の虎もいます。下の写真中央は眼光鋭い虎が今にも飛びかかってきそうな岸駒の《松虎図》。
そして左は今回の新発見は《魚介尽くし》。明治5~6年頃に森寛斎ほか、当時の京都画壇の日本画家たち20数名で描いた作品。
一見すると一人の画家が描いたのではと思えるくらい調和のとれた構図。
「宴会の余興に描いたものではないでしょう。京都画壇の組織力を感じます。」と古田さん。

右から、幸野楳嶺《敗荷鴛鴦図》(敦賀市立博物館)、
岸駒《松虎図》(公益財団法人 角屋保存会)、以上前期展示
森寛斎ほか《魚介尽くし》通期展示
ふたたび地下2階の展示室に移ります。4つめの章は「美人、仙人。物語を紡ぐ。」。人物画のコーナーです。

はじめに応挙の作品から。
下の写真左《江口君図》の女性の頭頂部の束ねた髪からほつれる髪の毛を一本一本丁寧に描いています。
「応挙の観察眼と力量のすごさがわかる作品です。」と平井さん。
左が円山応挙《江口君図》(静嘉堂文庫美術館)重要美術品、
右が幸野楳嶺《洞房粧雨図》、いずれも前期展示
こちらには同じ題材の作品が三点並んでいます。三国志に出てくる「三顧の礼
」で知られる、劉備、関羽、張飛の三人が雪の中、軍師として招こうとした諸葛孔明の元に向かっている場面を描いた《風雪三顧図》です。
いずれも《風雪三顧図》で、右から中島来章(京都府(京都文化博物館管理))、
呉春(奈良県立美術館)、円山応挙(京都・相国寺)
いずれも前期展示
円山派の祖・応挙、四条派の祖・呉春、そして円山派から四条派に移った中島来章。
一言で「円山・四条派」といっても、構図、人物、背景とも全く違って描かれています。

江戸中期以降、京都には多くの流派が生まれました。

円山応挙から始まった円山派、呉春に始まる四条派、さらに虎といえば先ほど紹介した岸派、猿といえば森狙仙と森徹山の森派、精緻な筆遣いの原在中を祖とする原派、豪快な絵を描く鈴木松年の鈴木派(鈴木派の祖は松年の父・鈴木百年)。まさに百花繚乱。

それぞれの流派の画風は何となく違うなというのはわかるのですが、古田さんの解説をおうかがいして納得しました。
「円山・四条派とは、江戸派に対する京都派の代名詞では。」

そして、「流派に係わりなく、互いに学びあいながら自らを高めていきました。横のつながりが強かったのです。」と説明されたのは平井さん。


今回の展覧会は、一人の画家の作品が飛び抜けて多くなく、幅広く多くの画家の作品が展示されています。
あまり難しく考えないで、自分なりに流派の違い、または個性の違いを感じ取りながら、京都画壇全体の雰囲気を楽しめればいいのかもしれません。

ちなみに、私にとっての呉春のイメージは、「今でもどこかにいそうで、人の良さそうなおじさんが描かれていたら呉春」です。

左が呉春《山中採薬図》(公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館)、
中央が円山応瑞、冷泉為泰賛《加茂競馬図》(泉屋博古館)、
右が岸駒《南極老人図》(敦賀市立博物館)
いずれも前期展示

美術館2階のミュージアムショップでは、兵庫・大乗寺客殿の写真も多く掲載された図録を販売しています。図録だけで2,646円。長沢芦雪《薔薇蝶狗子図》のかわいらしい犬をデザインした図録バッグとセットで3,510円。
作品の図版や解説はもちろん、円山・四条派の系譜や画家の解説もあります。まさに円山・四条派の決定版!

さて、駆け足で展覧会を紹介してきましたが、「円山応挙から近代京都画壇へ」展はいかがだったでしょうか。
近代京都画壇のキーパーソン・幸野楳嶺を作品紹介だけにしたりなど、かなりはしょってしまっい、とても全てをお伝えすることはできないほどの充実した内容です。ぜひともその場でご覧になっていただきたい展覧会です。
この機会に京都画壇の粋をお楽しみください。