2019年11月20日水曜日

「横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展

横浜みなとみらい地区にある横浜美術館は、今年(2019年)が開館30年にあたる記念すべき年。
現在開催されている「横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」は、「Meet the Collection-アートと人と、美術館」(4/13~6/23)、「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展(7/13~9/1)に続く、横浜美術館開館30周年記念の第3弾。


オランジュリー美術館といえば、楕円形の部屋の四方をぐるりと取り囲むモネの《睡蓮》の連作、印象派やエコール・ド・パリの画家たちの作品をもつ「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」で有名なパリ屈指の美術館。

このたび同館が改修工事のため「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」の展示室が今年9月から来年3月まで閉鎖される間、同コレクション146点のうち約半数にあたる69点が来日しました。

なんとオランジュリー美術館のほぼ半分がごっそり横浜にやってきたのです。
そして、巡回展はありません。

つまり、

横浜でしか見られないオランジュリー美術館展なのです。

これは見逃すわけにはいきません!

【開催概要】
会 場  横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
会 期  開催中~2020年1月13日(月・祝)
休館日  毎週木曜日(ただし12/26は開館)、12/28(土)~1/2(木)
開館時間 10:00-18:00
 *会期中の金曜・土曜は20:00まで開館(ただし、1/10~12は21:00まで) 
 *入館は閉館の30分前まで
観覧料(税込) 一般 1,700円ほか
詳しくはこちら→横浜美術館公式ホームページ
※館内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別の許可をいただいて撮影したものです。
※所蔵の記載のないものは、すべて「オランジュリー美術館 ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」です。

内覧会に先立って、今回の美術展を担当された同館学芸員の片多さんから展覧会の見どころを解説していただきました。

今回の展覧会の最大の見どころは、ルノワールはじめ、シスレー、モネ、セザンヌ、アンリ・ルソー、マティス、ピカソはじめ、私たちにとってなじみのある19世紀後半から20世紀前半のフランス絵画が最も輝いていた時代のスーパースターたちの作品が楽しめること。

まずは、シスレーとモネの風景画、セザンヌの静物画とセザンヌ夫人を描いた肖像画のコーナー。冒頭からすっかりオランジュリー美術館に瞬間移動したような気分になります。
シスレー、モネ、セザンヌのコーナー
続いて、木の葉の一枚一枚まで丁寧に描きこむのに、子どもの足が地面にのめり込んでいいたり、花嫁が宙に浮いていたり、どことなくおかしなところが持ち味のアンリ・ルソーのコーナー。
アンリ・ルソーのコーナー
左から、《人形を持つ子ども》1892頃、《婚礼》1905頃、《ジュニエ爺さんの二輪馬車》1908

そして、南フランス・ニース時代のマチスの作品。
部屋全体を明るくする赤系の色、そして窓からのぞく地中海がとてもいい感じです。
アンリ・マティス《ソファーの女たち(別名:長椅子)1921

おなじみのキュビスムや、古典に回帰した時代のピカソのコーナー。
パブロ・ピカソのコーナー
左から、《大きな静物画》1917-1918、《布をまとう裸婦》1921-1923頃

このように「この画家のこういった絵が見たかった。」という私たちの願いをかなえてくれる作品ばかりの「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」。
展示室内を歩いているだけでも満ち足りた気分にひたることができるのですが、こういった私たち好みのコレクションの基礎を作ったポール・ギヨームとはどういった人だったのか気になるところです。

右 アンドレ・ドラン《ポール・ギヨームの肖像》1919
左 アンドレ・ドラン《大きな帽子を被るポール・ギヨーム夫人の肖像》1928-1929
展示会場の入口でお出迎えしてくれるのは、28歳のころのポール・ギヨームの肖像画と、ギヨーム夫人ドメニカの肖像。

13歳の時に自動車修理工になったポール・ギヨーム(1891-1934)が20歳の頃、働いていた自動車修理工場がタイヤ用にアフリカから輸入したゴムの中に紛れ込んでいたアフリカ彫刻を偶然見つけました。
その美しさに魅了されてアフリカ彫刻の仲買人になったギヨームは、詩人のアポリネールと出会い、また、アフリカ彫刻の造形に熱狂していたパリの前衛芸術家たちと知り合い、23歳で画商になり、当時パリで活躍していた画家たちの作品を収集するようになりました。

ギヨームといえば、やはりこのモディリアーニの描いた、手にたばこを持ち、口をすぼめて煙を吐き出すようなそぶりの肖像画を思い浮べます。
貫禄があるようにも見えますが、ギヨームはこの時まだ23歳。
画面の左上には「ポール・ギヨーム」の名前が黒字で、左下には「Novo Pilota(新しき水先案内人)」が青系の色で描かれています。
また、キャプションによると、右上には聖母マリアを暗示する「Stella Maris(海の星)」がダビデの星や鉤十字とともに描かれているとのことですが、斜めから見て、ここがそうかなというくらいしかわからなかったので、みなさまぜひお近くでご覧になって探してみてください。

アメデオ・モディリアーニ《新しき水先案内人ポール・ギヨームの肖像》1915


ギヨームの資料紹介のコーナーには、ギヨームとドメニカ夫人のインテリアの再現ミニチュア(1/50)があって、この再現ミニチュアだけは撮影可です。

ギヨームは、シンプルでモダンな家具を好み、壁にはマティス、ドラン、モディリアーニなどの名品を飾り、書棚の上にはアフリカ彫刻を飾りました。

こちらはギヨーム邸の食堂の再現ミニチュア。
レミ・ムニエ作「ポール・ギヨームの邸宅(フォッシュ通り22番地、1930年頃):食堂」
(オランジュリー美術館)

こちらは書斎の再現ミニチュア。
すごくよくできたミニチュアなので、こうやって写真に撮ると、まるで本物の邸宅の中におじゃましたように見えませんか?。
レミ・ムニエ作「ポール・ギヨームの邸宅(フォッシュ通り22番地、1930年頃):ポール・ギヨームの書斎」
(オランジュリー美術館)
画商になってからは、パリ市内に次々と画廊を開設して、当時の現代作家たちの展覧会を開催したり、美術雑誌『パリの芸術』を創刊したギヨームは、37歳の頃、私邸を美術館にするという構想のもと邸宅を購入したりなど芸術活動に意欲的に取り組みました。

ポール・ギヨームの資料紹介コーナーの『パリの芸術』
(オランジュリー美術館アラン・ブレ・コレクション)

こういった活動が認められ、1930年には『パリの芸術』の出版と美術批評の功績によりレジオン・ド・ヌール勲章シュヴァリエ章(勲五等)を授勲されました。
こちらはフォーヴィズム(野獣派)の旗振り役の一人、キース・ヴァン・ドンゲンの《ポール・ギヨームの肖像》。
右胸にはさりげなくレジオン・ド・ヌール勲章の赤いリボンが描かれています。
キース・ヴァン・ドンゲン《ポール・ギヨームの肖像》1930頃
画商、出版者、コレクターとして活躍して得意の絶頂にあったギヨームですが、1934年、42歳の若さで亡くなりました。

その後、ギヨームのコレクションを引き継いだのがギヨーム夫人ドメニカ。
個性が強くプライベートでもスキャンダルが噂された彼女は、先ほど紹介したドランの描いた肖像画ではその性格が垣間見られますが、ローランサンが描くと左手に花を持ち、右手で犬を撫でる優しい女性になるから不思議です。
マリー・ローランサン《ポール・ギヨーム夫人の肖像》1924-1928頃
1941年、ドメニカは建築家のジャン・ヴァルテルと再婚。
印象派が好きだった彼女は、ギヨームの作品の半分を売却して印象派の画家の作品を集め、コレクションの幅を広げました。特にルノワールは彼女のお気に入りでした。

こちらは、この展覧会のハイライト、ルノワールのコーナー。
左は展覧会のポスターやチラシになっている《ピアノを弾く少女たち》、右は《ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル》。

左から、オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》1892頃、
《ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル》1897-1898頃
同じ構図の油彩画やパステル画が少なくとも6点制作された《ピアノを弾く少女たち》。
この作品は、油彩によるスケッチといった性格のものですが、背景はササッと描かれているだけに、人物が際立ち、少女たちはみずみずしい印象に見えます。
もう一点は、当時、文化人たちのサロンとなっていたルロル家の娘さんたち。彼女たちは印象派の画家たちのアイドル。背景にはドガの作品が描かれています。

1963年にはジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクションはフランス政府に売却され、1966年にオランジュリー美術館で初公開されたあと、1984年には同館で常設展示されるようになりました。
プライベートコレクションだったジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクションは、このようないきさつからパブリックなコレクションとなり、おかげで私たちも今、横浜で見ることができるようになったのです。

ギヨームもドメニカも好きだったドランの作品は、コレクションの中でも大きな位置を占めていて、今回の展示でも最も多い13点を数えます。

ドランのコーナー
こちらはギヨームが個展を開いて支援したユトリロのコーナー。白を厚く塗る「白の時代」の作品が中心です。
ユトリロのコーナー
そして展覧会の最後を飾るのは、エコール・ド・パリを代表する画家の一人、スーティン。
「バーンズコレクション」で有名なアメリカのコレクター、アルバート・バーンズが作品を大量に購入したことがきっかけとなって、一夜にしてドライバー付きの生活を送るようになったと言われるシンデレラボーイ、スーティン。
バーンズ・コレクションの菓子職人の絵を大変気に入ったギヨームが、コレクションに加えたのが、まだあどけなさの残る少年の菓子職人が描かれたこの作品。

シャイム・スーティン《小さな菓子職人》1922-1923

そして、この先は展覧会ショップのコーナー。展覧会グッズも充実しています。
図録は公式図録(2,300円+税)とミニ図録(1,200円+税)の2種類。
こちらはコンパクトなミニ図録。持ち運びに便利です。


ピカチュウが案内するジュニアガイドもあるので、大人も子どもも楽します。


音声ガイド(1台560円 税込)は女優の上白石萌音さん。萌音さんの優しい声の解説、そして特別出演のピアニスト福間洸太朗さんのピアノの音色がさらに会場の雰囲気を盛り上げてくれます。

会期は来年(2020年)1月13日(月・祝)まで。

この冬限定、横浜限定のオランジュリー美術館コレクションの展覧会。

ぜひこの機会に横浜みなとみらいにお越しになってください!