2022年7月10日日曜日

大倉集古館 特別展「芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事ー」

 東京・虎ノ門の大倉集古館では、特別展「芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事ー」が開催されています。

大倉集古館外観


今回の特別展では、沖縄を代表する織物「芭蕉布」の伝統技法を太平洋戦争後に復興させて、さらに進化させた人間国宝・平良敏子さんと、平良さんの地元・喜如嘉の芭蕉布織物工房の友部(ドゥシビー=盟友)たちの手織物の足跡を知ることができる、まさに沖縄本土復帰50周年の記念すべき年にふさわしい展示を見ることができます。

それではさっそく展示の様子をご案内したいと思います。

※展覧会におうかがいしたのは前期展示の時でしたが、7月5日(火)から後期展示が始まっていますので、通期展示、後期展示の作品を紹介しました。

展覧会概要


展覧会名  特別展 芭蕉布ー人間国宝・平良敏子と喜如嘉の手仕事ー 
会 期   2022年6月7日(火)~7月31日(日)
      ※途中一部展示替あり:後期展示7月5日(火)から    
開館時間  10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日   毎週月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)
入館料   一般 1,300円 大学・高校生 1,000円 中学生以下無料
※本展は事前予約不要です。
※展覧会の詳細、各種割引料金等は同館公式サイトをご覧ください。
大倉集古館公式サイト⇒https://www.shukokan.org/




※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は主催者より特別にお借りしたものです。


涼し気な芭蕉布の着物がお出迎え

汗をぬぐいながら強い陽ざしの中を歩いて展示室内に入ると、目に入ってくるのは色とりどりの芭蕉布。

軽くて、風通しがよくて、いかにも涼し気で、柄もバラエティーに富んでいる芭蕉布を見ていると、まるで沖縄の強い日差しを避けて木陰で休んでいるようなさわやかな気分になってきます。

煮綛 芭蕉布 着物「黄地 ヤシラミー 碁盤」

こちらは後期に展示されている明るい色の着物です。 
煮綛 芭蕉布 着物「黄地 ヤシラミー 碁盤」
芭蕉布織物工房所蔵(後期展示7/5-7/31)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


煮綛(ニーガシー)とは、染色する前の糸を木灰汁で煮て柔らかくすること。
この工程を経た色鮮やかな芭蕉布を煮綛芭蕉布といいます。

碁盤は「グバン」と呼びます。
無地のようにも見えますが、近くで見ると淡い藍染めの糸と、黄色の濃淡の糸で格子柄が織られているので、とても上品な感じがします。


天井から吊り下げられているさまざまな色合いや柄の10点の裂地も、まるで南国の風にゆらいでいるようで、とてもいい雰囲気を醸し出していました。

煮綛 芭蕉布 裂地「赤地 小鳥 綾中」

空をすいすいと飛んでいるようなスピード感のあるツバメは、戦後に平良敏子さんが考案した柄で、ほかの着物でもこの柄が用いられているので、平良さんのアイコンのようにも感じられました。

煮綛 芭蕉布 裂地「赤地 小鳥 綾中」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


煮綛 芭蕉布 裂地「紺地 変わり 八十八」

「八十八」は「米」という文字を崩したもので、米寿を祝うとてもおめでたい柄。
紺地というところに落ち着いた上品さが感じられます。

煮綛 芭蕉布 裂地「紺地 変わり 八十八」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha



リズミカルでモダンな芭蕉布の柄が楽しめます


芭蕉布 着物「銭玉 番匠」

番匠(中世の建築職人)の道具、直角定規と、穴あき硬貨をモチーフにした銭玉を交互に配置しリズミカルな柄がひと際目立つ「銭玉 番匠」は、着たらカチャーシーを踊りたくなってしまうかもしれません。
芭蕉布 着物「銭玉 番匠」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


芭蕉布 着物「ムチリーくずし」

十字の柄がアクセントになっている「ムチリーくずし」は、洗練されたデザインで華やかに見えますね。

芭蕉布 着物「ムチリーくずし」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


芭蕉布 着物「藍コーザー 引下 眉引」

こちらは藍色の上品な色合いの着物。
落ち着いた雰囲気の中にも、藍と生成りの経の絣柄を少しずつずらして配置しているので、やはりリズミカルな感じがします。

芭蕉布 着物「藍コーザー 引下 眉引」
個人蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha
 




芭蕉布 帯地「藍コーザー アササ」

芭蕉布の用途を着物以外に広めて、初めて帯を作ったのが平良敏子さん。
伝統を復興させるだけでなく、芭蕉布の新たな境地を開拓したところが平良さんのオリジナリティーあふれる魅力なのです。

戦後の喜如嘉では、セミやトンボなど身近な虫や植物をモチーフにした柄が生み出されましたが、こちらは暑い夏に一生懸命鳴くセミですね。

芭蕉布 帯地「藍コーザー アササ」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


2階展示室には裂地が24点展示されていて、小鳥、銭玉、番匠といったさまざまな柄を楽しむことができます。

芭蕉布 裂地「小鳥と柳」

空を飛ぶツバメが出てきました。
柳の枝の間を器用にすり抜けて飛んでいる様子が目に浮かんできます。
 


芭蕉布 裂地「小鳥と柳」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha


芭蕉布 裂地「ケーキ柄」

ケーキといってもイチゴの乗ったショートケーキではありません。
長細い柄がアイスキャンディーのように見えることから付けらた名前で、戦後すぐの沖縄では棒付きのアイスはアメリカ風にアイスケーキと呼ばれていたそうです。

芭蕉布 裂地「ケーキ柄」
芭蕉布織物工房所蔵(通期展示)
©Atsushi Higa Photo Studio Tsuha



2階には芭蕉布作りに欠かせない道具類も展示されています。

そして、芭蕉布は、糸芭蕉の栽培から収穫、糸づくり、染色、織りといった、およそ30もの工程を経て作り上げられる、とても時間と手間がかかるものなのです。

受付では、芭蕉布ができるまでの行程や、使われる道具をイラスト入りで解説した「喜如嘉の芭蕉布が生まれるまで」という資料をいただくことができます。

こういった資料を作成するのは大変な作業だと思いますが、喜如嘉の芭蕉布を知ることができる貴重な資料なのでとても参考になります。






会期は7月31日(日)まで。
南国に行った気分になれるとても心地のよい展覧会です。
みなさまもぜひ!