2023年5月4日木曜日

静嘉堂@丸の内 特別展「明治美術狂想曲」

静嘉堂文庫美術館の展示ギャラリー「静嘉堂@丸の内」では、特別展「明治美術狂想曲」が開催されています。


展覧会チラシ

幕末から明治にかけて人々の価値観が大きく転換して、日本の歴史上まれに見る激動の時代に「美術」はどのように展開していったのでしょうか。
まさに「狂想曲」が流れるような当時の雰囲気が伝わってくる展覧会です。


展覧会開催概要 


会 期  2023年4月8日(土)~6月4日(日)
     前期 4月8日(土)~5月7日(日)
     後期 5月10日(水)~6月4日(日)
休館日  月曜日、5月9日(火)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
     金曜日は18:00(入館は17:30まで)
会 場  静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
入館料  一般 1500円 大高生 1000円 
     障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名無料を含む) 700円
     中学生以下無料

※展示室内及びミュージアムショップは撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別の許可を得て撮影したものです。(ホワイエは撮影可です。)
※前期後期で展示替え等がある作品にはその旨を記載しています。
※展示作品はすべて静嘉堂文庫美術館所蔵です。

ギャラリー1 第1章 「美術」誕生の時-江戸と明治のあわい-


幕末から明治にかけの絵師たちは現代の私たちの想像が及ばないほど大変な思いをしたのではないでしょうか。なにしろ後ろ盾になっていた幕府や大名が力を失って、今まで売れていた絵が売れなくなり、生活すらおぼつかなくなったのでしょうから。

そういった中、したたかに時代を読んで新たな境地を切り開いた絵師たちがいました。
その代表格の一人が河鍋暁斎(1831-1889)。

天保2年(1831)に生まれた暁斎は、はじめに歌川国芳に浮世絵を学び、その後は狩野派で修業して、のちに独立。明治に入ると独創的な画風で一世を風靡しました。

展示の冒頭は、幕末から明治にかけて活躍した暁斎、月岡芳年らの幕末期の浮世絵から始まります。

ギャラリー1 展示風景

続いては明治に入って河鍋暁斎が描いた《地獄極楽めぐり図》(前期後期で場面替えあり)。

河鍋暁斎《地獄極楽めぐり図》明治2~5年(1869-72)
前期後期で場面替えあり


14歳で早世した小間物問屋勝田五兵衛の娘・田鶴(たつ)の追善供養のために制作されたこの画帖は、狩野派の画法をベースにしながらも暁斎独特の色遣いやユーモラスな表現もあって、新たな時代の到来が感じられる作品です。
中には明治5年5月に品川-横浜間で仮営業が始められた鉄道をモチーフにした乗り物も描かれています。
派手に飾りつけられていて実物とはかなり違うので、はたして暁斎は実際に鉄道を見たのかわかりませんが、さっそく新しいものを取り入れたところが暁斎ならではといえるのではないでしょうか。

河鍋暁斎《地獄極楽めぐり図》(部分)明治2~5年(1869-72)
前期後期で場面替えあり



ギャラリー2 第2章 明治工芸の魅力-欧米好みか、考古利今か-


明治に入ると外貨獲得のため、ジャポニズムの流れに乗って欧米好みの工芸品が積極的に輸出されました。
ギャラリー2には、今でいう「超絶技巧」の名品がずらりと並んでいます。

ギャラリー2 展示風景

ヨーロッパで人気だったのが「SATSUMA」の商標で積極的に輸出された薩摩焼。
表情やしぐさが可愛らしい獅子や麒麟が乗った色彩鮮やかな薩摩焼は、ヨーロッパの邸宅の重厚な部屋を明るくてなごんだ雰囲気にしてくれたことでしょう。

右 薩摩焼《色絵金彩獅子鈕香炉》左 《色絵金彩麒麟鈕香炉》
どちらも明治9年(1876)頃

一方で、明治10年代になると西洋文化一辺倒から日本の伝統的な美術品が顧みられるようになり、その時期に開催されたのが旧大名家などから自慢の逸品が出品展示された「観古美術会」でした。

明治13年(1880)に開催された第1回観古美術会に出品されたのが、淀藩主稲葉家に伝わり、「稲葉天目」と呼ばれた《曜変天目》、現在は静嘉堂文庫美術館が所蔵する国宝《曜変天目(稲葉天目)》でした。

国宝《曜変天目(稲葉天目)》南宋時代(12-13世紀)


ほかの作品が並ぶ展示ケースの反対側の単独ケースに入って展示されているので、あやうく見逃すところでしたが、なぜこのギャラリー2に展示されているのかがわかりました。
第2章のタイトルにある「考古利今」のとおり、「考古」一遍にならずに「利今」を目的とした観古美術会が開催された当時の流れに沿ってこの場所に展示されているのでした。


第1回観古美術会には、明治になるまでは大伽藍を誇り、明治の廃仏毀釈で廃寺になった奈良・内山永久寺の真言堂に安置されていた広目天眷属像もほかの四天王眷属像とともに展示さました。


重要文化財 康円《広目天眷属像》
鎌倉時代 文永4年(1267)

東西南北の四方を護った四天王のうち《持国天(東方天)眷属像》と《増長天(南方天)眷属像》が東京国立博物館、《多聞天(北方天)眷属像》がMOA美術館に所蔵されていて、この広目天(西方天)の眷属像は、のちに川崎造船などを創業した川崎正蔵氏が所有しましたが、その後、岩崎家の所蔵になりました。

2022年10月15日~12月4日に神戸市立博物館で開催された特別展「よみがえる川崎美術館-川崎正蔵が守り伝えた美への招待-」で展示されている時にも拝見しましたが、大仏師・運慶の孫にあたる康円作の、外敵に対してにらみを利かせるこの像の存在感には今回も圧倒されました。


ギャラリー3 第3章 博覧会と帝室技芸員


横幅も広く、高さもあるギャラリー3のこの展示ケースは、大画面の屏風がお似合いです。


右 重要文化財 橋本雅邦《龍虎図屏風》、左 野口幽谷《菊鶏図屏風》
どちらも明治28年(1895) 前期(4/8-5/7)展示

今回は、岩崎家の支援により開催された第四回内国勧業博覧会(明治28年(1895))の出品作品の中から、静嘉堂文庫美術館が所蔵する8点の屏風のうち前期後期で4点が見られるまたとないチャンスです。

後期(5/10-6/4)には、松本楓湖《蒙古襲来碧蹄館図屏風》、今尾景年《耶馬渓図屏風》が展示されます。

ちなみに同館が所蔵する屏風4点は次のとおりですが、この大きな展示ケースに展示されているところをぜひ見てみたいです。

川端玉章《桃李園独楽園図屏風》
野口小蘋《春秋青緑山水図屏風》
望月玉泉《雪中芦雁図屏風》
鈴木松年《群仙図屏風》

ギャラリー3では、皇室による日本美術・工芸の保護奨励を目的として明治23年(1890)に創設された帝室技芸員制度によって第1回目に帝室技芸員に任命された柴田是真(漆芸)、加納夏雄(彫金)の作品をはじめとした工芸の名品も展示されています。
(橋本雅邦も日本画の分野で第1回目に帝室技芸員に任命されています。)

蒔絵の五段重ねの重箱は、幕末から明治期に日本画家、蒔絵師として活躍した柴田是真の作。

柴田是真《柳流水蒔絵重箱》江戸~明治時代(19世紀)

蓋の上から下に流れる川は、絞漆を薄く塗り、生乾きのうちにへらや刷毛で波紋を描く青海波塗という技法で表現され、岸辺の柳や岩などは金銀蒔絵という贅を尽くした重箱はぜひぐるっと回って四方からその模様をお楽しみいただきたいです。

そして、柴田是真と同じく幕末から明治にかけて活躍した彫金家の第一人者・加納夏雄の金工の小刀も、細長い刃の面に描かれた模様に注目したいです。
下の写真のうち《小刀》中央の「ホトトギス」は本当に小さいので単眼鏡をお持ちの方はご持参いただくことをおすすめします。

 右から、加納夏雄《菊彫仙媒》、《小刀(柳図・月にホトトギス・薄図)》
どちらも明治時代(19世紀)

 

第3章の作品はホワイエにも展示されています。(ホワイエは撮影可。)


ホワイエ展示風景



ギャラリー4 第4章 裸体画論祖と高輪邸の室内装飾


今回の展覧会のタイトル「明治美術狂想曲」をもっとも体現しているのがこの第4章ではないでしょうか。

明治34年(1901)に開催された第六回白馬会に出品された黒田清輝の《裸体婦人像》は議論を呼び、警察の指導により作者が最も力を注いで描いた下半身が布で覆われて展示されるというドタバタがあったのです(後に「腰巻事件」と呼ばれました)。
西洋では理想美とされていた裸体像が、明治中期の日本では公序良俗に反するとされていたのです。

ギャラリー4 展示風景

ギャラリー4には、下半身に布を覆って展示された時の貴重な写真も展示されています。
この《裸体婦人像》は展覧会公式図録の表紙になっていますが、当時の「狂想曲」の様子を表すため、婦人の下半身が隠れるように帯の幅が通常より広くなっています。

展覧会公式図録


朗報!曜変天目ぬいぐるみの販売が再開しました。


静嘉堂文庫美術館の展示ギャラリーが丸の内に開館して以来、大人気の曜変天目ぬぐるみは、5月3日(水)から1日10個数量限定で販売が再開されました。
詳しくは同館公式サイトをご覧ください。

他にも曜変天目はじめ展示作品関連グッズや展示作品のカラー図版や詳しい解説が掲載された公式図録も販売されているので、ぜひミュージアムショップにもお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


5月20日から始まる8日間限定企画が見逃せない!


世田谷区岡本にある静嘉堂文庫美術館では、河野元昭館長の傘寿をお祝いして、近世絵画の中から河野館長が大好きな名品、気になる作品が展示される展覧会が8日間限定で開催されます。

展覧会チラシ




5月20日(土)と5月28日(日)には「饒舌館長大いに語るギャラリートーク」が開催されます。
詳しくは同館公式サイトをご覧ください。

5月は、うれしいことに丸の内と世田谷区岡本の両方で展覧会が開催されます。
どちらも見逃せません!