2026年7月22日水曜日

国立西洋美術館 企画展「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」

東京・上野公園の国立西洋美術館では、企画展「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が開催されています。
 


今回の企画展は、17世紀オランダを代表する画家レンブラント(1606-1669)の版画表現の可能性を拓いた名作はもちろん、レンブラントに憧れた巨匠たちの作品も展示されて、レンブラントの版画史における’’インパクト”にも注目した国内初の大規模な展覧会です。

それではさっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


展覧会名 版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト
会 場  国立西洋美術館(東京・上野) 企画展示室
会 期  2026年7月7日(火)~9月23日(水・祝)
開催時間 9:30~17:30(毎週金・土は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
主 催  国立西洋美術館、レンブラント・ハウス美術館、朝日新聞社
国立西洋美術館公式サイト⇒https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2026rembrandt.html

展示構成
 第1章  レンブラント、版画の挑戦
 第2章 受け継がれる遺産 17―18世紀
 第3章 世紀を超えるインパクト 19―20世紀

※展示室内は一部の作品を除き撮影可です。会場で撮影の注意事項をご確認ください。


見どころ1 版画家レンブラントの挑戦!


今回の展覧会では、「油彩以上に色彩豊か」(詩人・批評家テオフィル・ゴーティエ[1811-1872])とも言わしめた、レンブラント版画の魅力がたっぷり紹介されます。

レンブラントは、エッチング制作を始めた当初、多くの自画像を制作しました。その主要な目的のひとつは、表情の習作だったと考えられています。
第1章の冒頭には、レンブラントの母の肖像、レンブラント自身の自画像、アムステルダムの版画商の肖像などが展示されています。

第1章展示風景


レンブラントの自画像は、驚いたような様子だったり、しかめっつらをしていたり、羽根飾りつきの帽子をかぶってかしこまっていたりと表情豊か。
レンブラントという人がとても身近に感じられました。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《自画像、口を開けた顔》
1630年 エッチング レンブラント・ハウス美術館



レンブラントがエッチングで手掛けた主題は、肖像、風俗、聖書の物語、風景など多岐にわたりますが、ジャンルの専門化が進んだ17世紀当時のオランダでは、レンブラントの主題の幅広さは例外的なもので、野心的なものでした。

風俗画が人気を博したこの時代にレンブラントは風俗画も描きましたが、無宿者や旅回りの楽師や行商人など社会のアウトサイダーとみなされてきた人たちを好んで描いたのもレンブラントの特徴でした。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《旅回りの楽師たち》
1635年頃 エッチング レンブラント・ハウス美術館

キリスト教的主題も当時では主流ではありませんでしたが、レンブラントが制作したエッチングの中で大きな割合を占めていたのが「キリスト教主題」の作品でした。

エッチングの歴史に残る傑作とされるのが《百グルデン版画》。
このタイトルは作品についた破格に高額な値段にもとづいたもので、1649年末までにはこの価格がすでについていたとのことですので、レンブラントの人気の高さがうかがえます。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《百グルデン版画》
1648年頃 エッチング、ドライポイント、ビュラン/和紙 国立西洋美術館


厳かに光を放つキリストを中心に、『マタイによる福音書』19章に記された複数のエピソード―病人の癒し、パリサイ人たちとの論争、子どもたちの祝福、富める若者への譴責―が一つの画面の中で同時進行的に描かれています。
複数のエピソードを同時進行で展開させる手法、線の重ね具合によって画面右側の漆黒の闇からグレー、白へと移り変わる陰影のグラデーション、そしてインクのにじみの効果が出る和紙を使っていることなど、まさにレンブラントの挑戦がぎゅっと詰まった作品です。



見どころ2 レンブラントのインパクト!


「どちらがレンブラントのエッチング作品でしょうか?」と聞かれても迷ってしまいますが、下の写真右はレンブラント20歳代の《自画像、口を開けた顔》から18年後に制作された《窓辺でエッチングを制作する自画像》、左はゲオルク・フリードリヒ・シュミットの《窓の蜘蛛を伴う自画像》でした。

右 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《窓辺でエッチングを
制作する自画像》1648年 エッチング、ドライポイント、ビュラン/中国紙 
左 ゲオルク・フリードリヒ・シュミット《窓の蜘蛛を伴う自画像》
1758年 エッチング、ドライポイント どちらもレンブラント・ハウス美術館

シュミットは、エングレーヴィングによる肖像画の複製において高く評価されたドイツの作家で、キャリアの後半にはレンブラント風のエッチングを多く手掛けるようになり、サンクトペテルブルク滞在中に制作された《窓の蜘蛛を伴う自画像》は、その代表作に数えられます。
レンブラントの自画像を土台にしつつ、シュミットが好んだと考えられるヴァイオリンやワイン、兵役の経験を示唆する剣、窓の外にはロシアの風景、窓ガラスには運命や時の経過と結びつけられたモティーフのクモの巣が描かれるなど、独自の趣向を取り入れているところに注目したいです。

フランスの画家でフォーヴィスムの代表的作家のひとり、マティスもレンブラントへの敬意を表した作品を描いていました。


アンリ・マティス《版画を彫るアンリ・マティス》
1900-03年 ドライポイント 国立西洋美術館


18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍したスペインの画家、版画家ゴヤは、スペインであまり知られていなかったレンブラントの版画を熱心に研究して、受けた刺激を自作に反映させました。

左 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《使徒たちに現れるキリスト》
1656年 エッチング レンブラント・ハウス美術館
右 フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス
《〈戦争の惨禍〉79:真理は死んだ》 1810-20年頃
エッチング、バーニッシャー/ウォーヴ紙 国立西洋美術館


「真理」は、王政復古による「憲法の自由」の死の暗喩を表した作品で、群像の配置や「真理」が発する光線の描写に、レンブラントの《使徒たちに現れるキリスト》とのつながりが見て取れます。


エッチングに対する関心が下火になっていた19世紀、エッチング・リヴァイヴァルが起こり、エッチングの普及と地位向上を目指す『エッチングのパリ』誌の宣伝のために制作されたのが、レガメのポスターでした(下の写真右)。

このポスターのオリジナルは、今回の展覧会のメインビジュアルになっているレンブラントの《書斎の学者(ファウスト)》(下の写真左)。今回の展覧会のメインビジュアルになっている作品です。

右から フレデリック・レガメ《『エッチングのパリ』誌ポスター》
1875年 リトグラフ/青色紙 レンブラント・ハウス美術館
ヴィクトル=マリー・ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』1832年、パリ
(初刊1831年) 東京大学総合図書館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《書斎の学者(ファウスト)》
1652年頃 エッチング、ビュラン、ドライポイント 国立西洋美術館


見どころ3 レンブラント・ハウス美術館と国立西洋美術館による共同企画!


「わっ、なんでここに《夜警》が!?」と一瞬驚いてしまいましたが、これはレンブラントの《夜警》をはじめ名高い巨匠たちの油彩画をもとに、数々のエッチングを制作したフランス人画家シャルル・ワルトネの作品でした。
そしてこれは国立西洋美術館の所蔵作品と知って、またいつか見る機会があるかもと思い、うれしくなってきました。

シャルル・ワルトネ《夜警(レンブラントに基づく)》1886年
エッチング、ドライポイント/和紙 国立西洋美術館 星元太郎氏より寄贈



次の2点の作品もレンブラントとシュミットの作品と同じく「どちらがレンブラントの作品?」と思ってしまいますが、下の写真の上がレンブラントの《三本の木》(国立西洋美術館)、下がフランスの画家、彫刻家、銅版画家、ルグロの《嵐の川景色》(レンブラント・ハウス美術館)です。
雨や雲、木々の表現など、ルグロがレンブラントのインパクトを受けた作家のひとりであることがよくわかります。

なお、《三本の木》の作品解説のキャプションによると、左の水辺では男女が釣り糸を垂れ、右の繁みには密会中の男女が潜み、右奥の斜面の上を馬車が横切り、その先にはレンブラント自身と思われる画家が描かれているとのことですが、すべてを見つけ出すのはかなり難易度が高いです。ぜひその場でレンブラントの巧みなエッチング表現に「挑戦」してみてください。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《三本の木》 1643年
エッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館


アルフォンス・ルグロ《嵐の川景色》
1857年 ドライポイント レンブラント・ハウス美術館


オランダ、アムステルダムの中心に位置するレンブラント・ハウス美術館は、レンブラントが1639年から1658年まで実際に暮らした家を利用した、世界で唯一のレンブラント専門の美術館で、レンブラントによるエッチングの世界有数のコレクションを中心に、素描作品、さらに彼と関連の深い、あるいは、その強い影響を受けた芸術家たちの作品を収蔵しています。

一方、国立西洋美術館でも、レンブラントのエッチングを重点的な収集の対象として、《百グルデン版画》など代表作を含む、20点余の作品を所蔵しています。
今回の展覧会は、レンブラント・ハウス美術館と国立西洋美術館による共同企画で、両館が誇るコレクションを中心に、国内の美術館や個人蔵の作品も加えた約130点が一挙に展示され、レンブラントのエッチングと、それが同時代及び続く時代に与えた影響を見ていく企画です。

先ほどご紹介したレンブラントとゴヤの夢の競演をはじめ、両館の作品が並んで展示されていて比較できるのも共同企画ならでは。この絶好の機会にぜひ版画家レンブラントの魅力をお楽しみいただきたいです。


特設ミュージアムショップには関連グッズも盛りだくさん。



展覧会公式図録もおすすめです。

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