2026年9月24日木曜日

国立新美術館 ルーヴル美術館展 ルネサンス 

東京・六本木の国立新美術館では、ルーヴル美術館展 ルネサンスが開催されています。

展覧会チラシ



真筆とされる絵画作品はわずか15点ほどしか現存しないレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の作品のうち、5点を所蔵するルーヴル美術館からレオナルドの傑作《女性の肖像》、通称《美しきフェロニエール》が初来日するというので、今回の展覧会をとても楽しみにしていました。
そのうえ、ボッティチェリ、ティツィアーノ、デューラー、クラーナハ、エル・グレコなどルネサンスを代表する巨匠たちの作品も来日するというのですから、期待度倍増。
さらに、油彩だけでなく、木版画や銅版画、ブロンズ彫刻、メダル、陶器、タペストリーなど、さまざまな技法が飛躍的に発展したルネサンス期ならではの表現を見ることができるので、みどころいっぱいというのもうれしいです。

開幕前に開催されたプレス内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


会 期  2026年9月9日(水)~12月13日(日)
休館日  毎週火曜日 ※ただし、9/22、11/3、12/8は開館、11/4は休館
開館時間 10:00ー18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会 場  国立新美術館 企画展示室1E
     〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
観覧料  一般 2,400円 大学生 1,400円、高校生 1,000円
※12月7日(月)~13日(日)は日時指定制が導入されるため、日時指定券の購入が必要です。
詳細は展覧会公式ウェブサイト、展覧会公式SNSで発表されるのでご確認ください。
その他、展覧会の詳細等は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください⇒https://www.ntv.co.jp/louvre2026/

       
※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で許可を得て撮影したものです。


展覧会は、ルネサンスを代表する人であるレオナルド・ダ・ヴィンチから導き出された4つのテーマ—旅、技法の革新と洗練、古代へのまなざし、肖像芸術の隆盛によって構成されています。


Ⅰ. 旅


展示室に入ってすぐに私たちをお出迎えしてくれるのは、異国情緒あふれる大画面の油彩画でした。

ヴェネツィアの画家《ヴェネツィア共和国の使節団を迎えるダマスクス総督》1511年頃
パリ、ルーヴル美術館


この作品が制作された当時、現在のシリア・アラブ共和国の首都ダマスカス(ダマスクス)は、エジプトやシリアを支配したマムルーク朝(1250-1517)の地方州都のひとつでした。
この作品は長い間、コンスタンティノープルを描いたものと考えられ、次いでカイロとされていましたが、円筒状の2層の壁で支えられた象徴的なドームを特徴とするウマイヤ・モスクの南ファザードが画面左側に描かれているので、ダマスクスの街と同定されたものです。
安全にシリア旅行ができた30年ほど前、ダマスクスのウマイヤ・モスクや、破壊される前のパルミラ遺跡を訪れた時のことを思い出して懐かしさがこみ上げてきました。


ドイツ・ルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーの大ファンで、ドイツ・ニュルンベルクのデューラーの工房(デューラー・ハウス)にまで行った筆者としては、今回特に楽しみにしていたのがデューラー作の《サイ》でした。


アルブレヒト・デューラー《サイ》1515年(初版)
パリ、ルーヴル美術館


実際にサイを見たことがないデューラーは、自身の想像力を駆使して描いたので、背中に角が生えていたり、胴体はまるでアルマジロみたいに甲冑のようなものを見につけていたりと、実物とはかけ離れていますが、この迫力ある《サイ》はデューラーの死後にも7回重版されるほど人気を博しました。
二度にわたってイタリアを訪れたデューラーも、多くの巨匠たちと同じく旅が重要な芸術的転機になった画家でした。デューラーはイタリアで人体表現や遠近法を学び、イタリアの芸術家たちはデューラーの高度な版画技法に多くを学んだのでした。


Ⅱ.技法の革新と洗練


今回の展覧会では、ルネサンス期における技法の革新にも注目したいです。
特に版画芸術では、15世紀半ばにドイツで確立された活版印刷術が木版画の新たな流行をもたらし、同じくドイツで誕生してヨーロッパに広まった銅版画は、絵画や彫刻の複製に用いられるだけでなく、木版画とともに、自立した一つの芸術形式としてみなされるようになりました。

複製版画と呼ばれる分野を開拓した16世紀イタリアの版画家マルカントニオ・ライモンディの《パリスの審判》はラファエロの原作に基づく作品ですが、原作が失われてしまったので、この版画が時代を越えて多くの芸術家に参照され、以後の西洋美術に計り知れない影響を及ぼしたという美術史上とても重要な作品です。
19世紀フランスの画家エドゥアール・マネの《草上の昼食》(パリ、オルセー美術館)は、発表当時、激しい批判を受けましたが、この版画から着想を得たこともよく知られています(右下の3人の人物のポーズに注目!)。


マルカントニオ・ライモンディ、ラファエロ・サンツィオの原作に基づく
《パリスの審判》1513-1581年頃 パリ、ルーヴル美術館


今回の展覧会の出品作品の中でもっとも驚き、レオナルド作品をのぞくとイチ押しの作品はこちらです。

フランス、おそらくパリ《「田園風陶法」による楕円水盤》
1600-1650年 パリ、ルーヴル美術館


中央のヘビも、周囲の蛙も、ものすごくリアルで今にも動きそう。ヘビを取り囲むように泳ぐ魚たちもまるで生きているようです。
「田園風陶法」という言葉は初めて耳にしましたが、実際の動植物から直接取った型を用いたというのですから、2度驚いてしまいました。


Ⅲ.古代へのまなざし


古代ギリシャ・ローマの文化を規範としたルネサンス期に芸術家たちは、古代の文献や建物、彫刻を学びました。
フィレンツェのルネサンスを代表する画家ボッティチェリの《5人の天使に囲まれる聖母子》では、聖母マリアの青衣のドレープや、左側の天使の動きなどの描き方に、ボッティチェリの古代彫刻学習の成果が反映されているのでした。

サンドロ・ボッティチェリ《5人の天使に囲まれる聖母子》1470年頃
パリ、ルーヴル美術館

デューラーとともにドイツ・ルネサンスを代表する巨匠ルカス・クラーナハ(父)が描いた《三美神》は、ギリシャ神話に登場するゼウスと、オケアニデスの一人であるエウリュノメとの間に生まれた三姉妹。
ボッティチェリの《春(プリマヴェーラ)》(フィレンツェ、ウフィツィ美術館)をはじめ、多くの絵画に描かれていますが、16世紀当時の流行を反映した帽子やネックレスを見につけるなど、作者のオリジナリティが出ています。
一番右の女神が左手で左足首を持って、左足を持ち上げているポーズが気になります。

ルカス・クラーナハ(父)《三美神》1531年
パリ、ルーヴル美術館


携帯用小型祭壇画を形成していたこの2枚の板絵は、古代の豊穣の女神ケレスの彫像が描かれた絵画が覆いの役割を果たし、これをスライドさせると聖家族の絵画が現れるという仕組みでした。
ラファエロの名が記されていますが、ラファエロの最も有能な弟子だったジュリオ・ロマーノが師の構想に基づいて描いたものと考えられています。

ラファエロ・サンツィオ、ジュリオ・ロマーノ 右《豊穣》または《ケレス》、
左《聖母子と聖エリザベト、洗礼者聖ヨハネ》通称《小さな聖家族》
1517-1519年頃 パリ、ルーヴル美術館 



Ⅳ.肖像芸術の隆盛


ルネサンス期に大きく花開いたのが肖像芸術でした。

イタリア・ルネサンスの三大巨匠のうち、ラファエロに関連する作品は「Ⅱ.技法の革新と洗練」、「Ⅲ.古代へのまなざし」でご紹介しました。そして、レオナルドの作品は最後に登場しますが、「ミケランジェロの作品がない!」と思っていたところ、ここまで来て見つけました。
《ミケランジェロの肖像》です。

頭に巻いたターバンのしわのリアルさに目を奪われましたが、これは彫像の制作中に飛び散る石くずやほこりが髪につかないようにするためのもので、絵画や建築にも才能を発揮したミケランジェロの彫刻家としての自負の表れだったのです。

バッチョ・バンディネッリに帰属《ミケランジェロの肖像》
1522年頃 パリ、ルーヴル美術館


そしてレオナルド作品が展示されている部屋に移りますが、VIPルームのように1点だけが展示されいるのではありません。
そこにはレオナルド作品をより深く理解することができるように、メダルや油彩画など関連する作品があわせて展示されているので、ぜひ展示室内をぐるりと一周して作品をご覧いただきたいです。

注目したいのはそれぞれの肖像の顔の向きです。
15世紀のイタリアでは、ローマ皇帝やその一族の横顔を刻んだ古代のコインに倣って肖像メダルが製作されるようになり、その流行は次第にヨーロッパ中に広まりましたが、肖像は横顔でした。

ところが、ルーヴル美術館コレクションの基礎を築き、レオナルドをパリに招いたフランス国王フランソワ1世(在位1515-47)の肖像画は少し違います。
作者はルネサンス盛期のヴェネツィアの巨匠ティツィアーノ。
横向きのポーズは人物が静止した印象を与えるので、ティツィアーノは王の胴体を四分の三正面に向けて描いたのでした(四分の三正面観)。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《フランソワ1世の肖像》
1538年頃 パリ、ルーヴル美術館


《フランソワ1世の肖像》と並んで展示されているのは、横向きの《女性の肖像》。
かつてはレオナルドの《美しきフェロニエール》とされた作品で、モデルはフランソワ1世の愛妾と言われていましたが、今日の歴史学では架空の人物であったと考えられています。


ロンバルディアの画家《女性の肖像》通称《美しきフェロニエール》
1500-1512年頃 パリ、ルーヴル美術館


そしていよいよレオナルド作品の登場です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ《女性の肖像》誤って付された別称
《美しきフェロニエール》1490-1497年頃 パリ、ルーヴル美術館

作品タイトルがとてもミステリアスな響きがしますが、これは、フランス革命を経て、18世紀末に王室コレクションがルーヴル美術館に移管された頃、ロンバルディアの画家の作品との混同が生じて、このレオナルド作品が誤って《美しきフェロニエール》と称されたのでした。
そして描かれた女性は、顔も胴体も四分の三正面を向いた「四分の三正面観」。
見る人によって印象は異なるでしょうが、私たちの気配に気が付いてこちらに振り向いたようにも、私たちに何かを語り掛けるようにも見えて、横顔の肖像画よりは私たちとの距離が近いように感じられます。


特設ショップにはルネサンスを代表するルーヴル美術館の傑作をイメージしたグッズをはじめ、豊富なレパートリーが揃っているので、お帰りにはぜひお立ち寄りください。


特設ショップ


絵画から彫刻、版画、素描、工芸まで、ルネサンスの多彩な作品をカラー写真とともに紹介して、テキストや資料も充実した展覧会公式カタログもおすすめです。
表紙の《美しきフェロニエール》はなんと実寸大です!


展覧会公式カタログ

巡回展はありません。
都内でレオナルド作品を中心としたルネサンス期の雰囲気をぜひお楽しみいただきたいです。