2026年9月24日木曜日

東京ステーションギャラリー 水滸伝

東京ステーションギャラリーでは、水滸伝が開催されています。


東京ステーションギャラリー入口

ご存じ『水滸伝』は、北宋第八代皇帝・徽宗(在位1100-25)の時代、群盗・宋江(そうこう)率いる108人の豪傑たちが梁山泊に集まり活躍したものの、最後は悲惨な結末を迎えるという物語。
日本には江戸中期に伝えられ、一大ブームを巻き起こしました。

今回の展覧会は、『水滸伝』に着想を得た江戸時代から現代に至るまでの日本の作品や、舞台となった北宋時代の雰囲気を伝える中国の美術品などから『水滸伝』の魅力に迫る見どころ満載の内容です。

開幕前に開催されたプレス内覧会に参加しましたので、さっそく展覧会の様子をご紹介したいと思います。

展覧会開催概要


展覧会名 水滸伝
会 場  東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
会 期  2026年9月19日(土)~11月8日(日) ※会期中、一部の作品の展示替えがあります。
休館日  月曜日(ただし10/12、11/2は開館)、10/13(火)
開館時間 10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで
入館料  一般 1,600円 高校・大学生1,100円、中学生以下無料

展覧会の詳細、チケット購入方法等は展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202609_suikoden.html

展示構成
 第一章 梁山泊へようこそ
 第二章 豪傑たちの生きた時代
 第三章 武侠小説・水滸伝の誕生と流行
 第四章 拡張する英雄像
 第五章 忠義のゆくえ

※展示室内は一部を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。


第一章 梁山泊へようこそ


展示室に入っていきなり驚いてしまいました。
第一章には、江戸時代後期の浮世絵師・歌川国芳の出世作《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)》シリーズのうち現在確認されている74枚が一挙公開されているのです。
いくつかの作品は今まで見たことはありますが、74枚全部というのは今回が初めて。

「第一章 梁山泊へようこそ」展示風景


猫好きで知られる国芳が15歳の頃、初代歌川豊国に入門したものの、兄弟子・国貞の後塵を拝してしばらく不遇の時代を過ごしたあと、30歳を過ぎて持っていたエネルギーを一気に炸裂させたかのようなパワーにただただ圧倒されるばかり。


「第一章 梁山泊へようこそ」展示風景


『水滸伝』と聞いて思い浮かべる作品は他にもありますが、国芳の出世作はビジュアル的には最高の展示ではないでしょうか。

《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)》シリーズで最初に刊行された5点のうちのひとつ「花和尚魯知深初名魯達」もこの迫力。人気が出るはずです。

《通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)》のうち「花和尚魯知深初名魯達」歌川国芳
日本 江戸時代 19世紀 個人蔵


第二章 豪傑たちの生きた時代


『水滸伝』に登場する豪傑たちが生きた時代は北宋(960-1127)の末期。
北宋は文治主義を掲げ、都の開封は経済的に繁栄しましたが、しだいに北方民族の圧迫を受けるようになり、「風流天子」といわれた徽宗は、文化・芸術を振興したものの、政治には熱心でなく、豪奢な生活を送り、重税で人民を苦しめ、国は乱れました。

北宋時代の開封のにぎわいを描いた《清明上河図》のなかでは、北京故宮博物院に所蔵されている北宋・張沢端筆と伝わる作品がよく知られていますが、明代以降にも多くの《清明上河図》が制作されました。今回の展覧会で展示されるのは岡山・林原美術館が所蔵する重要文化財《清明上河図》です。


重要文化財《清明上河図》趙浙筆 中国 明時代 万暦5年(1577)
林原美術館 (前半10/12まで、後半10/14から)

長さ5.7m以上もある巻物なので、前半と後半で巻替えがあります。
行き交う舟や街のにぎわい、多くの人、人、人。細部まで見ていると時間がいくらあっても足りないのですが、筆者が特に好きなのは虹橋の様子です(下の写真)。

重要文化財《清明上河図》(部分)趙浙筆 中国 明時代 万暦5年(1577)
林原美術館 (前半10/12まで、後半10/14から)

徽宗の悪政を象徴するものとして、江南地方から珍木奇石を徴発して人民を苦しめた「花石綱」がありました。「花石綱」は1120年に起こった農民反乱、方臘(ほうろう)の乱の原因となり、この混乱によって北宋は弱体化して、1127年には北方の金に開封を追われ滅びてしまったのです。

「花石綱」で集められたとされるのが「太湖石」です。
太湖石とは、中国の江蘇省と浙江省にまたがる太湖から産出される石で、水の浸食によって奇怪な形をしているもので、古くから庭園などで観賞用に珍重されました。

《太湖石》中国 泉屋博古館 


第三章 武侠小説・水滸伝の誕生と流行


第三章では、挿絵入りの『忠義水滸全伝』(明時代末)や『忠義水滸全書』(清時代初)をはじめとした版本から、『水滸伝』が小説として誕生して、流行する様子をうかがうことができます。

また、今回の展覧会は大阪市立美術館開館90周年記念特別展「水滸伝」(大阪市立美術館、2026年7月11日~9月6日)の巡回展ですが、第二章から第三章にかけて、大阪市立美術館が誇る中国書画のコレクション「阿部コレクション」の中から中国書画の名品の数々が展示されていることに気がつきました。
2018年に大阪市立美術館で開催された「生誕150周年記念 阿部房次郎と中国書画」展には横浜から大阪まで前期、後期とも見に行ったくらい、大の中国書画ファンの筆者としては北宋から明時代までをはじめとした名品に再会することができて、とてもうれしくなりました。


こちらは第二章に展示されている、北宋初期の宮廷画家・燕文貴の《江山楼閣図》です。

《江山楼閣図》燕文貴筆 中国 北宋時代 10~11世紀
大阪市立美術館(阿部コレクション)

第三章に展示されているのは、(伝)張僧繇《五星二十八宿神形図》。

《五星二十八宿神形図》(伝)張僧繇 中国 制昨年代不詳
大阪市立美術館(阿部コレクション)
 
同じ大阪市内にある大阪市立東洋陶磁美術館の陶磁器の名品も展示されています。
第二章に展示されている透き通るような青が印象的な北宋時代の《青磁 水仙盆》は撮影可です。会場内で撮影の注意事項をご確認ください。


《青磁 水仙盆》汝窯 中国 北宋時代 11世紀末~12世紀初
大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)


第四章 拡張する英雄像


第二章、第三章は中国の版本、書画、陶磁器が中心でしたが、第四章では、『水滸伝』の流行を背景に日本で出版された版本などを見ることができます。

なんといっても注目したいのは、曲亭馬琴と葛飾北斎による読本『新編水滸画伝 初編』です。巻之六を除く諸巻は初摺本に近く、細く鋭い線が美しく、北斎画の迫力と緻密さをよく伝えている一級品。
歌川国芳の作品に影響を与えているという点でも重要な作品なのです。

前列、中央の列および奥の列の左2冊 『新編水滸画伝 初編』 曲亭馬琴 作、
葛飾北斎画 日本 江戸時代 文化2年-4年(1805-07)、
奥の列右から 『画本東都遊 絵草紙店』葛飾北斎 日本 江戸時代 享和2年(1802)刊
『百八星誕肖像』葛飾北斎 日本 江戸時代 文政12年(1829)刊
いずれも浦上蒼穹堂


そして再び歌川国芳の登場です。
各図に豪傑を九名ずつ配置した《水滸伝豪傑百八人》の豪傑たちは、豪快で大胆なポーズをとるというよりは、かしこまって威厳があるように見えました。

《水滸伝豪傑百八人》歌川国芳 日本 江戸時代 天保14~弘化3年(1843~46)頃
個人蔵


一方、一転して笑っていたり、怒ったり、泣きわめいたり、驚いたりと滑稽で表現豊かな豪傑たちが描かれているのが《狂画水滸伝豪傑一百八人》。
豪快なのも、ユーモラスなのも、どちらも国芳の魅力ではと思いました。


《狂画水滸伝豪傑一百八人》歌川国芳 日本 江戸時代
 文政10年(1827)頃 個人蔵

なお、ここから先は一部を除き撮影可のエリアになります。ここでも撮影の注意事項をご確認ください。


第五章 忠義のゆくえ


第五章では、現代日本の文化・芸術の中でどのように展開しているのかがわかる作品が展示されています。

天井にぶら下がったロープにつかまり、足で絵を描くフット・ペインティングという独自のスタイルを確立した白髪一雄の《天魁星呼保義》の前に立つと、豪傑たちのパワーが伝わってくるように感じられました。

「第五章 忠義のゆくえ」展示風景
左が《天魁星呼保義》白髪一雄 日本 昭和39年(1964)
京都国立近代美術館 


北方謙三の小説『水滸伝』を原作として令和8年(2026)に放映された連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」をご覧になられた方もいらっしゃるかと思いますが、ドラマで使われた衣裳も展示されています。

連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」衣裳 日本 平成8年(2026)



ミュージアムショップには展覧会オリジナルグッズが揃っています。お帰りにはぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ


『水滸伝』にまつわる中国・日本美術の名品の数々を全件フルカラー248ページで紹介して、論文やコラム、作品解説や資料なども充実した「水滸伝」公式図録もおすすめです。


「水滸伝」公式図録


『水滸伝』を手がかりに中国や日本のさまざまジャンルの名品が見られる展覧会です。
ぜひお楽しみください。