11月28日(金)夜 ドレスデン
夕食は、聖母教会の向かいにあるおしゃれな店でとることにした。その名も「レストラン・ツア・フラウエンキルヒェ(聖母教会レストラン)」。店の前にあったメニュー表を見ると、値段は少し高そうだったが、今回のドレスデンでのメインテーマが「聖母教会」なので最後の夜にはちょうどいいと思った。
店の前にはいろいろな国の国旗とその国の言語で歓迎の言葉が書かれている。中央のグリーンのネオンサインの右側には日本語で「ようこそ」とある。
メニューも日本語版があってわかりやすい。
注文したのは一番右の列の真ん中あたりにある「ドレスデン風オリジナル酢漬けロースト肉(Original Dresner Sauerbraten)。「レーズンソース、リンゴ入り赤キャベツとポテトダンプリング」との注釈もある。
メニューの表紙はかつての聖母教会前のたたずまい。
このときはドイツ流に、ビールを飲みながら料理が出てくるのを待つことにした。
ジョッキ半分くらい飲んでもまだ料理は出てこない。
テーブルの横の手すりの上にカメラを置いて、自動で自分の写真を撮っていたら、向かいに座っていた家族連れの中年の女性が、「撮ってあげたのに」と言って笑った。そこで「ありがとうございます。でもよく撮れてました」と私。
ジョッキ1杯目を飲み終わったころようやく料理が出てきた。
手前がロースト肉、右上が赤キャベツ。左上のポテトダンプリングは、ポテトをこねて丸くしてから蒸しているので、プルンプルンしている。ドイツではジャガイモが主食なので、これがご飯がわりになる。
ロースト肉は口の中でとろけるくらい柔らかく、赤キャベツはシャキシャキ、ポテトはプルプル、とそれぞれの食感を楽しみながらゆっくりと味わった。もちろん2杯目のビールを飲みながら。
写真を撮っているのは私だけではなかった。
店内のあちこちでフラッシュが光っていた。さっきの家族連れもカメラを取り出した。
少し値段の張ったレストランでの食事は地元の人たちにとっても「ハレ」の行事なのだろう。
それでもビール中ジョッキ2杯と料理で20ユーロ50セント、チップ込みで23ユーロ。日本円でだいたい2,400円くらいだから、驚くほど高くはない。
レストランを出て、聖母教会前の広場でもう一度だけライトに照らされた教会の円天井を見上げた。
「いつになるかわからないが、きっとまた来よう」と思いながら脳裏にその姿を焼き付け、私はホテルの方角に歩き出した。振り返ればもう一度教会の姿を見ることができたが、最後の印象を大切にしたかったので、振り返らずに足早で歩いてホテルに向かった。
翌日も無理をすれば旧市街地に行くことができたが、あわただしい思いをするのはいやだったので、朝食をとったあとはそのままドレスデン中央駅まで歩き、列車でドレスデン空港に向かった。
途中、フランクフルト空港でトラバントのミニカーが荷物検査でひっかかたりもしたが、特にトラブルもなく、充実したアミューズメントのおかげで機内でも退屈することもなく、11時間あまりのフライトのあと、ぽかぽか陽気の日本に降り立った。
(「旧東ドイツ紀行」おわり)
(あとがき)
「旧東ドイツ紀行」の連載を始めたのが去年の12月25日。それから7か月、書きたいことがたくさんあって、自分で書いていながら、途中で「いつになったら終わるのだろう」と不安になることもありました。それでもようやく終えることができ、今は肩の荷が下りたような、ホッとした気分でいます。
それにしても、わき道にそれたりしながら、だらだらと続いたこの連載に最後までおつきあいいただいたみなさまにあらためてお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
次の連載は、「ギュンター・グラスの見たドイツ統一」というテーマで進めたいと思います。グラスは、終始、性急な統一には反対で、東西それぞれの独立した二つのドイツによる緩やかな連合体を作り、徐々に統合していくべき、と主張していました。
グラスが1990年に行った演説を集めた小冊子"Ein Schnäppchen namens DDR"をもとに彼がなぜ統一に反対していたのか探っていきたいと思っていましたが、おりしも先日「南ドイツ新聞」に「ヨーロッパの恥(Europas Schande)」という詩を発表したので、まず、その詩を手がかりにグラスがドイツの、また、欧州の現状をどう思っているのか考え、次に小冊子にあたることにします。
ただし、9月にはまたドイツ旅行を計画しているので、その旅行記で中断してしまうかもしれません。
今年はフランクフルトとワイマールに宿泊して、エアフルトかアイゼナハに寄りたいと思っています。今回のテーマは、メインが「ゲーテ」で、あわせてルター、クラーナハの跡をたどり、旧東ドイツにあったワイマールの現状を見るという欲張ったものです。こちらの連載もご期待ください。
それでは次回まで。