性急なドイツ統一に反対し続けたギュンター・グラス。
その理由の一つとして、ヨーロッパの中でドイツが突出して強くなり、周囲から嫌われることをあげていた。
ユーロ圏の中で圧倒的な政治力と経済力でギリシャに緊縮財政を迫るドイツ。
それを押しつけとばかりにドイツに反感をもつギリシャ。
こういった状況を見てグラスは「ああ、やっぱり危惧したとおりだ」と思っているであろう。
今年の5月、グラスは南ドイツ新聞に「ヨーロッパの恥(Europas Schande)」という詩を発表した。
タイトルからしてグラスが今、統一ドイツについてどう考えているのかよく分かるが、先走りしないで、まずは詩を訳してみよう。
ヨーロッパの恥
君は混沌の世界に近づいている。なぜなら、市場には公平さがないからだ。
君は、君に「ヨーロッパ発祥の地」という名を与えた国から遠ざかってしまった。
君が心からさがし求めたことは、君にとって大切なことだった。
でも今では価値のないものとみなされ、見捨てられている。
債務者として服も着ないでさらし者にされ、国は苦しんでいる。
君のおかげだ、というのはお世辞だったのだ。
貧しい国と宣告された国の冨が保護されて、博物館を飾っている。
それは君によって大切にされてきた略奪品だ。
武器を携えた軍勢が、多くの島々に恵まれた国を襲った。
将兵のために背嚢にはヘルダーリンを携えて。
これほど我慢させられた国はなかっただろう。
その国の陸軍大佐たちはかつては同盟国として君によってじっと耐え忍ばれていたのだ。
権限を持たない国を、いつも自分が正しいと思う人が意のままにし、
ベルトをギュッときつく締めつける。
君に反抗してアンティゴネーは喪服をまとい、人々は国じゅうで喪に服している。
君は彼らのお客さんだったのに。
それでも国の外では大富豪の親族の取り巻き連中が、
黄金色に輝いたものすべてを君の金庫に貯めこんでいる。
さあ飲め、さあ!周りで騒いでいる委員たちはこう叫ぶ。
しかしソクラテスはいっぱいになった杯(さかずき)を怒って君に返す。
君にとって何がおかしいのか、神々は声をそろえてののしるだろう。
オリンポスの山は君の意思のごとく財産の没収を欲している。
この国なしには君は愚かにもやせ衰えてしまうだろう。
その国の精神は君を、そしてヨーロッパを創造したのだから。
できるだけ原文に忠実に、かつ、分かりやすく訳したつもりだが、そこはドイツ人にとっても難解な文章を書くギュンター・グラス。説明なしには分かりづらい箇所も多々あるので、次回以降、ひとつの段落ごとに解説を加え、さらには私なりの解釈をしてみるつもりだ。
(次回に続く)