いよいよ悲劇は最終局面を迎える。
それでも国の外では大富豪の親族の取り巻き連中が、
黄金色に輝いたものすべてを君の金庫に貯めこんでいる。
ギリシャの大富豪たちが税を免れ海外の銀行に巨額の貯金を蓄えていることは、ギリシャ国民にとっても許しがたいことだ。
ただし、貯めこんでいるのはドイツの金庫でなく、スイスの銀行だ。
さあ飲め、さあ!周りで騒いでいる委員たちはこう叫ぶ。
しかしソクラテスはいっぱいになった杯(さかずき)を怒って君に返す。
委員たちとは、EUの内閣にあたる欧州委員会の委員たちのこと。
彼らはギリシャ人に向かって緊縮財政策を飲みこませようとするが、死刑宣告を受け、みずから毒杯をあおった古代ギリシャのソクラテスと異なり、現代のソクラテスたちは毒杯を容易には口にしようとしない。
11月8日には、EUやIMFなどから315億ユーロ(約3兆3000億円)の融資を受ける条件となる緊縮財政法案がギリシャ国会で可決されたが、賛成153票、反対128票というきわどい結果だった。それに、国会周辺では法案に反対する8万人もの市民が激しい抗議行動を行った。
君にとって何がおかしいのか、神々は声をそろえてののしるだろう。
オリンポスの山は君の意思のごとく財産の没収を欲している。
ギリシャ政府は空っぽになった国の金庫にお金を補充するため、国有財産の売却に着手した。国営企業の民営化や関連施設の売却で2015年までに総額190億ユーロ(約2兆円)を確保しようという計画だ。しかし、ことは思うように進まず、年内に売却できそうなのは宝くじ公社と、アテネオリンピックの会場跡地にある複合施設だけという始末。
その責任をとってか、国有財産の売却を目的に設立された「資産開発基金」のミトロプロス最高経営責任者は7月に辞任してしまった。後任者はすぐに指名されたが、こんなドタバタがあったのではギリシャ政府のもくろみもうまく行きそうにない。
オリンポスの山は、ギリシャ神話のゼウス神を中心とした12神が住む聖地。
神々は「ヨーロッパのルーツはどこだと思っているのか。なぜもっと敬意を払わない」とドイツやEU諸国に不平を言う。
しかし、神々は聖なるオリンポスの山まで売却しないとギリシャの財政は持ちこたえないのでないかと思っている。
ただし、売却するのは今のところオリンポスの山でなく、オリンピックが開催された「オリンポスの丘」だけで済みそうだ。
この国なしには君は愚かにもやせ衰えてしまうだろう。
その国の精神は君を、そしてヨーロッパを創造したのだから。
神々の訴えの効き目があったのだろうか。
今月8日になって、来年の5月以降に発行される新ユーロ紙幣には「ヨーロッパ」の由来となったギリシャ神話の王女「エウロペ」の顔が透かし部分に印刷される、と欧州中央銀行が発表した。
古代ギリシャに対する憧憬や敬意だけは忘れていないようだ。
しかし、だからといって現代のギリシャ財政に対する要求がおさまることはないだろう。
ギュンター・グラスの詩「ヨーロッパの恥」の私なりの解説及び解釈は以上です。
もちろんグラスが何を考えているのか、すべてを把握したわけではないので、十分でないところもあろうかと思いますが、この詩をより深く理解するための一助になれば幸いです。
グラスがこの詩を発表することになったきっかけは、「やっぱり怖れていたことが起こった」と思ったからでしょう。性急なドイツ統一に反対した理由の一つとしてグラスは、ヨーロッパの中に強すぎる大国ができてしまうことを挙げていたからです。
以前のブログで予告させていただいたとおり、次はグラスが1990年に行った演説を集めた小冊子"Ein Schnäppchen namens DDR"をもとに、なぜ彼が統一に反対したか探っていきたいと思いましたが、やはり同じ時に予告させていただいたとおり、演説集は後回しにして、今年9月にドイツに行った時の旅行記を先に連載したいと考えています。それは、今回の旅行でドイツ国内の東と西の「格差」が縮まっただけでなく、両者の差が「良さ」や「特徴」ではないかと感じたからで、まずはじめにそのことをお伝えしたいと思うようになったからです。
では、次回から「ドイツ・ゲーテ紀行」の連載を始めます。ご期待ください。