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今年3月に実施されたバーデン・ビュルテンベルク州、ラインラント・プファルツ州、ザクセン・アンハルト州の州議会選挙で高い得票率を得たAfDは、9月に入って行われた2州の州議会選挙でもその勢いを維持し続けた。
9月4日には、メルケル首相の地元メクレンブルク・フォアポメルン州議会選挙で、メルケル首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)を破り、第二党に躍り出た。
さらに首都ベルリン(ベルリンは都市州)では、9月18日に行われた議会選挙で、市議会で連立を組むSPD(社会民主党)、CDUともに得票率を減らし、連立与党の議席は過半数を割る一方、AfD
は14.2%の得票率を獲得した。
各州議会選挙の結果を見てみよう。
①バーデン・ビュルテンベルク州(投票日 3月13日)
得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)
- 緑の党 30.3%(+6.1%) 47議席(+11)
- CDU 27.0%(-12.0%) 42議席(-18)
- AfD 15.1%(+15.1%) 23議席(+23)
- SPD 12.7%(-10.4%) 19議席(-16)
- FDP(自由民主党) 8.3%(+3.0%) 12議席(+5)
合計 143議席(過半数 72議席)
ここではAfDがSPDを抑えて第三党に躍り出た。
前回の2011年選挙が東日本大震災による福島の原発事故直後に行われたため、脱原発を掲げていた緑の党が躍進し、保守層が強く、CDUが長く政権を担っていた南部の同州において初めて緑の党が政権をとって周囲を驚かせた。
今回もその好調さを維持し、緑の党は獲得議席を11議席増やしたが、もう一方の連立与党SPDが大幅に議席を減らし、合計議席数では過半数を割ってしまったため、政策的な開きが大きいCDUと連立を組むことになった。
それぞれの政党のシンボルカラーが緑と黒なので、果物のキウイに例えてメディアでは「キウイ連立」と言われているが、今度は水と油のように反りの合わない政党の連立が周囲を驚かせている。
②ラインラント・プファルツ州(投票日 3月13日)
得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)
- SPD 36.2%(+0.5%) 39議席(-3)
- CDU 31.8%(-3.4%) 35議席(-6)
- AfD 12.6%(+12.6%) 14議席(+14)
- FDP 6.2%(+2.0%) 7議席(+7)
- 緑の党 5.3%(-10.1%) 6議席(-12)
合計 101議席(過半数 51議席)
バーデン・ビュルテンベルク州の北に接する同州では、緑の党が大幅に議席を減らし、AfDが第三党に躍進した。
同州では、CDUがリードしSPDが追いかける展開が続いていたが、1991年の選挙でSPDがCDUを逆転してからはSPDが第一党の座を守っていた。前回2011年の選挙ではSPDが得票率を減らして42議席、CDUが41議席とほぼ同数になったが、SPDは18議席の緑の党と連立を組み、かろうじて与党の座にとどまることができた。
今回の選挙では、上記のとおり、連立相手の緑の党が得票率を大幅に減らし、両党では過半数を得られなくなったので、今回は5%条項(※)をクリアして議席を回復したFDPを加えて三党での連立となった。この連立は、それぞれの党のシンボルカラー、SPDの赤、FDPの黄、緑の党の緑をとって、メディアでは「信号連立」と呼ばれている。
(※)5%条項
小党が乱立して政治の混乱を招いたワイマール共和国時代の経験から、第2投票数(=比例票数)の少なくとも5%を獲得せず、または少なくとも3つの選挙区で当選者を出さなければ比例代表制に基づく議席の配分を受けることができない。
(ちなみに第1投票は小選挙区の立候補者に投じる票のこと)
③ザクセン・アンハルト州(投票日 3月13日)
得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)
- CDU 29.8%(-2.7%) 30議席(-11)
- AfD 24.3%(+24.3%) 25議席(+25)
- 左派党 16.3%(-7.4%) 16議席(-13)
- SPD 10.6%(-10.9%) 11議席(-15)
- 緑の党 5.2%(-1.9%) 5議席(-4)
合計 87議席(過半数 44議席)
上記①②の州が旧西ドイツの州であったのに対して、ザクセン・アンハルト州は旧東ドイツの州。
旧東ドイツの独裁政党SED(ドイツ社会主義統一党)の流れをくむ左派党は、ドイツ統一後、思ったほど生活レベルがよくならなかった市民の不満の受け皿となっていたが、今回の選挙結果を見る限り、近い将来、その役割をAfDに奪い取られてしまうかもしれない。
今まで連立を組んでいたCDUとSPDはいずれも得票率を落とし、両党だけでは過半数の議席を獲得できなかったため、緑の党を加えて三党で連立を組んだ。
現在の連邦議会のようにCDUとSPDの二大政党が連立を組むと、「大連立」と呼ばれるが、それに緑の党が加わると何と呼ばれるのだろうか。
④メクレンブルク・フォアポメルン州(投票日 9月4日)
得票率及び獲得議席数(カッコ内は前回2011年との比較)
- SPD 30.6%(-5.0%) 26議席(-1)
- AfD 20.8%(+20.8%) 18議席(+18)
- CDU 19.0%(-4.0%) 16議席(-2)
- 左派党 13.2%(-5.2%) 11議席(-3)
メクレンブルク・フォアポメルン州もザクセン・アンハルト州と同じく旧東ドイツの州。
ここでも既存の政党が軒並み得票率を下げ、緑の党に至っては得票率が4.8%に下がり議席を失う中、AfDは大きな成功を収め、第二党に躍り出ている。
高い得票数を獲得したとはいえ、旧西ドイツの二つの州では第三党のAfDが、旧東ドイツの二つの州ではいきなり第二党に躍り出たことは、ドイツ統一後、SEDという庇護者を失い、ぽっかりと大きな穴のあいた旧東ドイツ市民の心の中にうまく入り込んだということだろうか。なお、極右政党のNPD(ドイツ国家民主党)は市民の支持を失い、得票率が6.0%から3.0%に下がり議席を失った。
同州では、SPDとCDUが「大連立」を組んでいたが、今回も両党の議席数は合計で過半数を越えるので、この枠組みは次の4年間も続くのではないか。
こうやって各州の連立の枠組みを見てみると、ただ単に数合わせをして過半数を獲得しているだけではないか、と見えてしまうが、実はそうではない。
ワイマール期には小党が乱立して政治の混乱を招いたことはすでにふれたが、ワイマール期の有力な政党であった社会民主党、共産党、中央党といった政党がお互いに対立して政治の混乱を招き、それが結果的にナチスの台頭を許してしまったという苦い経験が大きな教訓になっている。
だからこそ既存の各政党は、AfDのような右派大衆政党が台頭してくると、小異を捨ててとにかく大同団結してその肥大化を避けようという行動に出る。
このメカニズムが、5%条項と並んで、ナチズムの再来を防ぐ大きな防波堤となっている。
こうやって各州の連立の枠組みを見てみると、ただ単に数合わせをして過半数を獲得しているだけではないか、と見えてしまうが、実はそうではない。
ワイマール期には小党が乱立して政治の混乱を招いたことはすでにふれたが、ワイマール期の有力な政党であった社会民主党、共産党、中央党といった政党がお互いに対立して政治の混乱を招き、それが結果的にナチスの台頭を許してしまったという苦い経験が大きな教訓になっている。
だからこそ既存の各政党は、AfDのような右派大衆政党が台頭してくると、小異を捨ててとにかく大同団結してその肥大化を避けようという行動に出る。
このメカニズムが、5%条項と並んで、ナチズムの再来を防ぐ大きな防波堤となっている。
さて、次回は現在でもあたかも壁が存在するかのような選挙結果が出たベルリンの議会選挙について見ていくこととしたい。
(次回に続く)
(次回に続く)