2017年3月26日日曜日

ドイツ連邦議会選挙の行方(1)

1 シュルツ候補の勢いはどこまで続くか?

今年1月にSPD(社会民主党)の首相候補として擁立されたシュルツ候補の勢いが止まらない。現職の首相でCDU/CSU(キリスト教民主同盟/社会同盟)が擁立したメルケル候補を一時は追い抜くほどの接戦を繰り広げている。

  3月10日付ZDF(ドイツ第二放送)の調査
   質問「首相としてどちらが望ましいか」
    1月 シュルツ候補 40%  メルケル候補 44%
    2月 シュルツ候補 49%  メルケル候補 38%
    3月 シュルツ候補 44%  メルケル候補 44%

幸先のよいスタートを切ったシュルツ候補であるが、このままの勢いが続いて、9月24日に実施される連邦議会選挙のあと、「シュルツ首相」が誕生することになるのだろうか?

2 シュルツ候補は首相になることができるか?

しかしながら、話はそう簡単ではない。
シュルツ候補が首相になるためにはSPD主導の連立が前提条件となるが、SPDの支持率はまだそこまでのレベルには達していない。

ZDFの3月の調査による各政党の支持率をSPD主導の連立について考えられる三つのパターンにあてはめみると次のとおりになる。

  各政党の支持率(カッコ内は前月比)
   CDU/CSU 34%(±0%)、SPD 32%(+2%)、左派党 8%(+1%)、
   緑の党 7%(-2%)、FDP 5%(-1%)、AfD  9%(-1%)、その他 5%(+1%)

  パターン① SPD主導による大連立(SPDとCDU/CSU)
        ⇒ SPDの支持率32%対してCDU/CSUは34%なので、このまま
         では、現在と同じCDU/CSU主導の大連立になってしまう。
  パターン② 赤緑連立(SPDと緑の党)
        ⇒ 政策的には共通点が多く、2002年から二期続いたシュレーダー
         政権での連立の実績もあるのでもっとも自然な連立パターンでは
         あるが、両党合わせても支持率は39%にしかならない。
  パターン③ 赤赤緑連立(SPD、左派党、緑の党)
        ⇒ 前回2013年の選挙結果ではこの三党が連立を組めば過半数をとる
         ことがもできたが、ロシア寄りで、NATO反対、海外派兵反対を主張
         する左派党と他の二党では外交政策面での隔たりが大きく、両者が大
         きく妥協しないと実現性が乏しい。それに、現時点では三党合わせて
         も支持率は47%にとどまり、わずかに過半数に達しない。

このような状況の中、シュルツ候補は同じSPDのシュレーダー元首相が2003年から着手した経済構造改革「アジェンダ2010(Agenda2010)」の修正を主張しはじめている。

3 シュルツ候補は旧SPD左派を呼び戻すことができるか?

シュルツ候補は言う。
「私たちは過ちを犯した。それらは修正されなくてはならない。」

労働者の解雇手続きの簡略化や失業手当支給期間の短縮など経営者寄りの政策を打ち出した「アジェンダ2010(Agenda2010)」に反対したラフォンテーヌ蔵相(当時)は2005年にSPDを離党、旧東ドイツのSED(社会主義統一党)の後継政党PDS(社会民主党)と合流してDie Linke(左派党)を結成した。
同年の連邦議会選挙ではSPD左派の票が左派党に流れ、SPDは29議席を失い、連立相手の緑の党と組んでも過半数に達しなくなった。対するCDU/CSUも22議席失い、コール首相時代の連立相手のFDP(自由民主党)と組んでも過半数を獲得できなかったため、SPDとCDU/CSUはやむなく大連立を組むことになった。
しかしながらSPDは222議席、CDU/CSUは226議席で、CDU/CSUの方がわずか4議席だけ多かったため、SPDは首相の座をCDU/CSUに明け渡さなくてはならなかった。
そこで誕生したのがメルケル首相である。

2002年には失業者数が400万人を超え、「ヨーロッパの病人」と呼ばれていたドイツは、大胆な経済構造改革は避けられない状況であった。
改革のおかげでその後ドイツの経済は好転し、その恩恵をメルケル首相が受けることになったが、一方で、SPDはSPD左派の支持を失い凋落していくという皮肉な結果になった。

こういった背景を受けて出てきたのがシュルツ候補の発言である。

SPDのナーレス労働相はさっそくシュルツ候補を援護射撃している。
「新たな給付を始めなくてはならない。それは失業手当Q(Arbeitslosengeld Q)。Qは資格取得(Qualifizierung)を支援する。」
資格取得のために職業訓練などを行う失業者に1年間の失業手当に加えて最大で2年間手当を給付しようという考えだ。

雇用保険会計から支出される失業手当が増えれば雇用保険料の雇用主負担も増えるので経営側は反対するが、労働者側からは好意をもって受け入れられている。
同じくZDFの調査では、賛成が65%、反対が30%という結果になっている。

はたしてシュルツ候補は旧SPD左派を呼び戻すことはできるのだろうか。
そして、さらに支持率を伸ばすために次の一手を打ってくるのだろうか。

連邦議会選挙前には次の3州で州議会選挙が行われる。
これら各州の選挙結果や今後の政党支持率の動向から目が離せない。

 3月26日 ザールラント州(人口 99万人)
 5月7日  シュレスヴィッヒ-ホルスタイン州(人口 283万人)
 5月14日 ノルドライン-ヴェストファーレン州(人口 1764万人)

(次回はザールラント州の州議会選挙の結果と、ZDFの4月の世論調査の結果をレポートします。)