2021年9月7日火曜日

東京藝術大学大学美術館「藝大コレクション展2021 Ⅱ期」

東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館では、藝大コレクション展2021のⅡ期が開催されています。


展覧会チラシ

きらびやかな雅楽や舞楽の世界が楽しめたⅠ期「雅楽特集を中心に」から雰囲気はがらりと変わり、Ⅱ期「東京美術学校の図案 大戦前の卒業制作を中心に」では、第1次世界大戦の始まりから第2次世界大戦前までのおよそ20年間の「激動の時代」に制作された東京美術学校(現在の東京藝術大学)図案科の卒業制作を知ることができる内容になっています。

今回もとても期待できそうな展覧会なので、先日、さっそく取材に行ってきました。

展覧会概要


展覧会名 藝大コレクション展2021 Ⅱ期「東京美術学校の図案 大戦前の卒業制作を中心に」
会 場  東京藝術大学大学美術館本館地下2階展示室1
会 期  2021年8月31日(火)~9月26日(日)
休館日  月曜日、9月21日(火) ※ただし9月20日(月・祝)は開館
開館時間 午前10時-午後5時(入館は午後4時30分まで)
観覧料  一般 440円 大学生 110円 高校生以下及び18歳未満は無料
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性があります。
※展覧会の詳細等につきましては、同館公式サイトでご確認ください⇒東京藝術大学大学美術館

※展示室内は、入口すぐの伎芸天を除き撮影不可です。掲載した写真は取材時に美術館の特別の許可をいただいて撮影したものです。

※掲載した作品は、東京藝術大学所蔵です。

展覧会は3章構成になっていて、江戸時代までから大戦前、そして現代の工芸の流れをたどることができる展示になっています。

イントロダクション
第1章 日本美術における文様・デザイン
第2章 大戦前の図案科の卒業制作/大戦前の工芸科の卒業制作
第3章 現代の工芸・近年の卒業制作にみるデザイン


イントロダクション

展示室入口でお出迎えしてくれるのは、Ⅰ期から引き続き展示されている諸芸の神様「伎芸天」。今回撮影可の作品はこの伎芸天のみです。

竹内久一《伎芸天》1893(明治26)年


第1章 日本美術における文様・デザイン

冒頭展示されているのは、一見したところ竹のように節のある筒状のもの。
これはいったい何なのでしょうか。

重要文化財 金錯狩猟文銅筒
後漢時代(25-220)

この銅筒は、楽浪(朝鮮半島)から出土されたもので、馬車の傘の柄の一部であったと推測されているものですが、近くでよく目を凝らして見てみると、孔雀や龍などの文様が描かれているのがわかります。

隣には図案科で教鞭を取った小場恒吉による銅筒の文様の展開図が展示されています。
この展開図によって、後漢時代の文様が2千年近くの時を超えて東京美術学校図案科に伝えられてきたとのことですが、重要文化財に指定されているこの銅筒は、文化財としても貴重なものであると同時に、図案科の学生さんたちにとっては貴重な「教材」でもあったのですね。


こちらの「教材」は円山応挙の弟子たちが使った《円山派 粉本資料》。


《円山派 粉本資料》 19-20世紀

令和2年度の新収蔵品で、円山派7世國井応祥(1904-1981)のご遺族から円山宗家に伝わる粉本類575件がこのたび東京藝術大学に寄贈されたものです。

可愛らしい「応挙犬」もいます!

《円山派 粉本資料》 19-20世紀


今回展示されているのはその一部ですが、ぜひほかの粉本も見てみたいです。

自然に学び、写生を重んじたため、曽我蕭白に「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし。」と皮肉られた応挙ですが、応挙にとって写生は作品を描くための練習で、実際の作品では自然がその場にあるかのように描いたのが円山応挙だったのです。

応挙の作品も展示されています。

右から、円山応挙《竹鶏図》1778(安永7)年、
《花卉鳥獣人物図》より《山水乗馬図》《芭蕉図》
《狗子図》いずれも1773(安永2年)


第2章 大戦前の図案科の卒業制作/大戦前の工芸科の卒業制作


藝大コレクション展2021 Ⅱ期の中心は大戦前の図案科と工芸科(金工科、鋳造科、漆工科)の卒業制作。


第2章展示風景


記事の冒頭で「激動の時代」と紹介しましたが、20世紀初頭はまさに芸術運動の激動の時代。今回展示されている卒業制作も、未来派のようなダイナミックな躍動感のある作品や、キュビズムの影響が感じられる作品、モダンな印象や幻想的な雰囲気の作品があって、新たな息吹が感じられる作品が展示されています。

一方、この時代は、第一次世界大戦の好景気は束の間で、戦後恐慌、それに追い打ちをかけるように発生した関東大震災、治安維持法の制定、柳条湖事件に端を発した満州事変など、世の中が暗い方向に向かっている時でしたので、作品の中に当時の不安感を垣間見ることもできます。

第2章展示風景


この時代の芸術運動の動きや時代背景、図案科の卒業制作の作品などの年表付きの解説パンフレットが展示室入口に用意されていますので、こちらをご覧になりながらご鑑賞いただくと、作品と時代背景との関連がよくわかって新たな発見があるかもしれません。
(解説パンフレットは無料。在庫がなくなり次第終了。)

解説パンフレット

展示室の中央には工芸科の卒業制作が展示されています。
この展示空間そのものが心地よいです。

第2章展示風景




第3章 現代の工芸・近年の卒業制作にみるデザイン

第3章には、金属工芸、ガラス工芸、漆芸など伝統的な技法を継承しながらも、現代的な感覚を取り入れたモダンなデザインの作品が展示されています。

第3章展示風景

家の中に広い応接間があれば飾っておきたいおしゃれな工芸品ばかりです。


第3章展示風景


修復記念展示

展示室入口に伎芸天と並んで展示されているのは、約半年の修復作業を終えて、蓋に描かれた五つの牡丹花の美しさがよみがえった《牡丹大食籠》。
左の解説パネルには、修復工程や、修復作業を通じて判明した制作技法などが記載されていて、修復作業の大切さ、大変さがよくわかります。

《牡丹大食籠》 元-明時代(14-15世紀)


まだまだ見どころはありますが、全ては紹介しきれませんので、後漢時代の文様に始まり、江戸時代まで、大戦前、現代と続き、元-明時代の《牡丹大食籠》にたどりつく、時間も空間も超えたデザインをめぐる旅を、ぜひ会場でお楽しみください。


最後になりましたが、デザインと言えば忘れてはならないのが、この方、尾形光琳。
第1章の江戸絵画のコーナーには、俵屋宗達の影響を受け、装飾的な画風を追求した尾形光琳と、光琳に私淑した酒井抱一のもとで光琳様式を学んだ池田孤邨の作品が展示されています。

こちらは重要文化財 尾形光琳の《槇楓図屏風》です。

重要文化財 尾形光琳《槇楓図屏風》
18世紀


「藝大コレクション展2021 Ⅱ期」が開催されている展示室1の向かい側の展示室2では、再演-指示(インストラクション)とその手順(プロトコル)」が同時開催されています。
会期は同じく8月31日(火)から9月26日(日)まで。入場無料です。
藝大コレクションも展示されていて、模型や模写、写真や映像による芸術作品の再演(再現)が見られる展覧会です。
こちらもあわせてぜひご覧ください。

藝大キャンパス内の案内看板