5月30日(土)に開催された、山種美術館開館60周年記念特別展「川合玉堂 ―なつかしい日本の情景―」関連イベント 口演会「川合玉堂そのなつかしさ 饒舌館長ベストテン」に参加してきました。
講師はアートブログ「饒舌館長」でおなじみの河野元昭氏です。
| 河野元昭氏 |
「講演会」ではなく「口演会」と書きましたが、これは誤字ではありません。
「口演」を辞書で調べると、「落語・講談など口で述べる演芸を行うこと」とありますが、川合玉堂の画業の変遷や作品の魅力などを、ユーモアを交えながらわかりやすく解説する河野氏のトークは口演会というタイトルにピッタリの内容でした。
河野氏のブログ「饒舌館長」では今回の特別展を紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。URLはこちらです⇒https://jozetsukancho.blogspot.com/
【展覧会開催概要】
会 期 2026年5月16日(土)~7月26日(日)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜日[7/20(月・祝)は開館、7/21(火)は休館]
入館料 一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
各種割引、展覧会の詳細、関連イベント、等は山種美術館公式サイトをご覧ください
※展示室内は次の1点を除き撮影禁止です。掲載した写真はプレス内覧会で美術館より許可を得て撮影したものです。
今回の撮影可の作品は、川合玉堂《紅白梅》(玉堂美術館)。
スマートフォン・タブレット・携帯電話限定で写真撮影OKです。展示室内で撮影の注意事項をご確認ください。
さて、「饒舌館長ベストテン」ですが、これは1位から10位までのランキングでなく、制作年代順に玉堂の画業の変遷をたどる流れになってます。
①写生画巻 1888(明治21)年、写生帖 1891-94(明治24-27)年頃 どちらも玉堂美術館
②鵜飼〈第4回内国勧業博覧会展〉 山種美術館 1895(明治28)年
③行く春(小下絵) 玉堂美術館 1916(大正5)年
行く春(屏風 重要文化財) 1916(大正5)年
④紅白梅(屏風) 玉堂美術館 1919(大正8)年頃
⑤昭和度 悠紀地方風俗歌屛風(小下絵) 玉堂美術館 1928(昭和3)年
昭和度 悠紀地方風俗歌屛風 皇居三の丸尚蔵館 1928(昭和3)年
⑥春風春水〈本山幽篁堂当代画蹟木刻竹器作品展〉 山種美術館 1940(昭和15)年
⑦山雨一過〈第6回新文展〉 山種美術館 1943(昭和18)年
写生帖 玉堂美術館 1936(昭和11)年頃
⑧早乙女 山種美術館 1945(昭和20)年
⑨朝晴〈第1回日展〉 山種美術館 1946(昭和21)年
⑩湖畔暮雪 山種美術館 1950(昭和25)年頃
00猫 山種美術館 1951(昭和26)年頃
河野氏の口演の内容を全てご紹介するとものすごいボリュームになってしまうので、ここでは河野氏が口演の中でふれた3つのキーワードに沿っていくつかの作品をご紹介したいと思います。
1 完成した形をこわしていく玉堂
①写生画巻 1888(明治21)年、写生帖 1891-94(明治24-27)年頃 どちらも玉堂美術館
②鵜飼〈第4回内国勧業博覧会展〉 山種美術館 1895(明治28)年
江戸絵画が専門の河野氏が近代日本画家のなかでも特に川合玉堂に関心をもったのは、玉堂の「完成した形をこわしていく」姿勢からでした。
愛知に生まれ岐阜で育ち、京都の画家・望月玉泉のもとで日本画を学んだ玉堂は、《写生画巻》(玉堂美術館蔵)に見られるように、15歳ですでに高度な技量を身につけ、写生と粉本を重視する京都画壇の中で研鑽を積んできましたが、これに飽き足らずに東京に飛び出すきっかけとなったのが、1895(明治28)年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会でした。
玉堂はこの博覧会に《鵜飼》(山種美術館)を出品しましたが、同じくこの博覧会に出品されていた狩野派出身の日本画家・橋本雅邦の《龍虎図屏風》(重要文化財 静嘉堂文庫美術館)を見て、写生は重視しても絶対視せず作者の想像力(イマジネーション)が感じられたこの作品にショックを受け、翌年には上京して雅邦門下に入ったのでした。
もちろん《鵜飼》(山種美術館)も決してつまらない絵ではなく、京都時代の代表作のひとつで、日本の自然と日本人の生活の融合をめざした玉堂の原点がこの作品にある、と河野氏は指摘しています。
2 文学に造詣の深かった玉堂
玉堂は俳諧や和歌など文学的素養があり、それが作品にも大きく影響していました。
③行く春(小下絵) 玉堂美術館蔵 1916(大正5)年
④紅白梅(屛風) 玉堂美術館蔵 大正8年頃
《行く春》(小下絵)は秩父・長瀞への旅に基づいて描かれた《行く春》(重要文化財 東京国立近代美術館蔵)の下図ですが、実際より険しく崖を描いていることから、中国・北宋の文学者、蘇東坡の『赤壁賦』をイメージしているのでは、と河野氏。
また、《紅白梅》(玉堂美術館蔵)も、尾形光琳筆の国宝《紅白梅図屛風》(MOA美術館蔵)の影響がうかがえますが、鶴と梅を愛でた中国・北宋の詩人、林和靖の梅を詠んだ詩『山園小梅』のなかの「疎影横斜水清浅、暗香浮動月黄昏」がイメージソースにあったのではと河野氏は指摘しています。
3 鳥瞰的・俯瞰的な視点から描く玉堂
⑦山雨一過〈第6回新文展〉 山種美術館蔵 1943(昭和18)年
写生帖 山種美術館蔵 1936(昭和11)年頃
写生をもとに想像力(イマジネーション)を働かせて、高いところから俯瞰的に見る視点から作品を描くのが玉堂の大きな特徴でした。
「これぞまさに風景画!」と河野氏がおすすめするのが《山雨一過》(山種美術館)。
なぜなら、風景の「風」は風(かぜ)、「景」は光をあらわすので、玉堂が描いたこの作品は風と光の世界を表現しているからなのです。
展示室にはこの作品につながる写生が描かれた《写生帖》(玉堂美術館)が展示されています。
写生では人物は描かれていませんが、本画には人物が描かれ、また、本画では風景は少し上からの視点で描かれているので、写生を見てから本画を見ると、見ている私たちが空中にふわっと浮かんだような錯覚にとらわれます。
玉堂の写生が本画にどのように高められていくのかがよくわかる対比です。
展示室の冒頭に展示され、今回の特別展のメインビジュアルにもなっている《早乙女》(山種美術館蔵)も俯瞰的な視点から描かれた作品です。そして、にじみを活かしたたらし込みによる畔道の表現には琳派の影響が見られます。
⑨朝晴〈第1回日展〉 山種美術館蔵 1946(昭和21)年
戦後に再開された第1回日展に出品された作品が、《朝晴》(山種美術館)。
この作品は、上から見下ろすのではなく、下から見上げるような構図になっています。
遠くには「白く輝く新しい日本が描かれているのでは。」と河野氏。
| 川合玉堂《朝晴》1946(昭和21)年 絹本・彩色 山種美術館 |
90分があっという間に過ぎていった口演会では、玉堂作品を見る新たな視点を聴くことができて、今まで以上に玉堂のファンになってしまいました。
さて、筆者のベストテンは、と考えているところですが、みなさまも展覧会をご覧いただいて、 マイ・ベストテンを選んでみてはいかかでしょうか。
山種美術館開館60周年記念特別展はこれからおよそ1年をかけて開催されます。
今後のスケジュールはこちらをご覧ください⇒https://www.yamatane-museum.jp/exhibitions/schedule.html