東京・上野公園の東京国立博物館では、弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」が開催されています。
今回の特別展は、空海ゆかりの名宝や密教美術の名品、真言宗各派の秘仏をはじめ、真言宗各派総大本山会(各山会)所属の十八本山をはじめ関係寺院が所蔵する国宝15件、重要文化財60件を含む88件の至宝が一堂に会した見どころ満載の展覧会です。
開幕前に開催された報道内覧会に参加してきましたので、展覧会の様子をさっそくご紹介したいと思います。
※真言宗各派総大本山会(各山会)所属の十八本山
長谷寺、仁和寺、寳山寺、智積院、朝護孫子寺、勧修寺、大覚寺、醍醐寺、根来寺、
中山寺、金剛峯寺、西大寺、教王護国寺[東寺]、清荒神清澄寺、泉涌寺、善通寺、
須磨寺、随心院
展覧会開催概要
会 期 2026年7月14日(火)~9月6日(日)
*会期中、一部作品の展示替えあり。
休館日 月曜日(ただし、8月31日(月)は本展のみ開館(東博コレクション展は休館。
8月10日(月)は本展は休館(東博コレクション展のみ開館)。)
観覧料金 一般 2,300円、大学生1,300円、高校生 900円
(注)中学生以下、障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に学生証、障がい
者手帳等の提示が必要。
展覧会の詳細等については展覧会公式サイトをご覧ください⇒https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kukai2026/
※展示室内は一部を除き撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
展示構成
第一章 空海と真言密教
第二章 後七日御修法の世界
第三章 真言宗各派の名宝
第四章 真言宗各派の彫刻と秘仏
第一章 空海と真言密教
唐で密教を学び、それを体系的に日本にもたらした弘法大師空海(774-835)が、「真言密教は非常に難しいので言葉だけでは伝わらない。造形の力で教えの真髄を説く。」と言っているように、真言密教の仏画や仏像を前にすると、視覚的に強く訴えてくるものが感じられます。
赤々と燃え上がる炎の中、目を大きく見開き、忿怒の形相で威圧するのは、京都・醍醐寺が所蔵する国宝《五大尊像》。
不動、降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉の五大明王が一幅ずつ描かれ、国家の安寧を祈る仁王経法や、息災、増益、調伏のために行われる五壇法の本尊として用いられた《五大尊像》は、この迫力なら魔物も逃げてしまうだろうという圧倒的な説得力があります。
| 国宝《五大尊像》のうち〈不動明王〉(右)、〈降三世明王〉 鎌倉時代 12~13世紀 京都・醍醐寺 前期展示(7/14-8/9) 後期(8/11-9/6)には〈軍荼利明王〉〈大威徳明王〉〈金剛夜叉明王〉 が展示されます。 |
| 弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景 |
続いて注目したいのは、墨の線だけで描かれた白描の密教図像。
仏様の姿・形を描いたものを図像といいますが、それぞれの仏様の形、手の形(印相(いんそう))、手に持つもの(持物(じもつ))など、文字で説明されているものを形にしているため間違って伝えられることも避けられるので、密教寺院ではとても大切にされてきました。
| 《十二天図像》のうち(右から)〈伊舎那天〉〈帝釈天〉〈火天〉〈閻魔天〉 〈羅刹天〉〈水天〉鎌倉時代・13世紀 京都・醍醐寺 前期展示(7/14-8/9) 後期(8/11-9/6)には〈風天〉〈毘沙門天〉〈梵天〉〈地天〉〈日天〉〈月天〉 が展示されます。 |
第二章 後七日御修法の世界
照明を落とした厳かな雰囲気の空間が見えてきました。
ここでは一般には公開されることがない後七日御修法の様子が再現されています。
※後七日御修法(ごしちにちみしほ)
1月8日~14日までの7日間、京都・教王護国寺[東寺]灌頂院で鎮護国家、五穀豊穣、玉体安穏などを願い、各山会各派の山主らによって営まれる真言宗最高の法会。一般には非公開。
| 弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景 |
上の写真手前は、かつて内裏の仁寿殿で行われ、のちに清涼殿の二間で行われた後七日御修法のうち観音供(かんのんぐ)の本尊として用いられていたことから「二間観音」と呼ばれていた秘仏、聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像で、この三尊の組合せはとても珍しく、ほかに類例がないものです。
また、この三尊は儀式の際も写真奥の厨子に安置されていますが、今回は特別に厨子からお出ましになっていただきました。中央の聖観音菩薩立像でも高さ約25cmの小さな像ですが、希少材であるビャクダン製の本体表面にほどこされた截金文様や、台座の色彩、金属製の精緻な光背や装身具など、当時の工人たちの技術の粋を前からも左右からも後ろからも見ることができます。
第三章 真言宗各派の名宝
第三章には、真言宗各派の寺院が誇るゆかりの名宝のうち、書画や工芸を中心に展示されています。
ここで信貴山朝護孫子寺の僧・命蓮の奇跡のエピソードが描かれた国宝《信貴山縁起絵巻》に久しぶりにめぐり合えたのはうれしかったです。
三巻構成の絵巻のうち、前期(7/14-8/9)には、命蓮が信貴山から鉢を飛ばして托鉢していたところ、これを渋った長者の米倉を飛行させた場面が描かれた「飛倉巻」、後期(8/11-9/6)には、延喜帝(醍醐天皇)の病を、命蓮が信貴山から剣護法を遣わして癒した「延喜加持巻」が展示されます。
| 国宝《信貴山縁起絵巻》 「飛倉巻」 平安時代・12世紀 奈良・朝護孫子寺 前期展示(7/14-8/9) 後期(8/11-9/6)には「延喜加持巻」が展示されます。 |
上の写真左奥に展示されているのは同じく奈良・朝護孫子寺が所蔵する《金銅鉢》です。
鉢は僧侶が托鉢の際に用いる道具で、この《金銅鉢》は聖徳太子の宝前に施入したもので、聖徳太子創建との伝承がある朝護孫子寺における太子信仰を象徴する貴重な作品です。
なお、この《金銅鉢》は命蓮の持ち物と混同されていた時期もあったそうです。
現在のドローンのように空を飛んだ鉢ではありませんが、このように関連作品が並んで展示されていると、国宝《信貴山縁起絵巻》のイメージがふくらむのでとてもありがたいです。
第四章 真言宗各派の彫刻と秘仏
第四章には、奈良時代の古仏から、初期密教の魅力を伝える傑作や、普段は姿を見ることができない「秘仏」まで、真言宗各派に受け継がれてきた仏像の名品が一堂に会しています。
会場内には梁や柱が設置されていて、まるで寺院のお堂に入ったようなしつらえになっています。仏教がテーマの展覧会なので、実はこのように臨場感のある展示を期待していたのですが、まさに期待どおり。
この雰囲気を満喫しながら仏様たちを拝むことができました。
第一章では、掛軸の《五大尊像》を拝見しましたが、こちらは彫刻の五大明王像。
東寺や高野山で修行を重ねた密教僧の湛海が数え73歳という、当時としてはかなり高齢になって制作したとは思えない迫力が感じられます。
閉じていた厨子がそーっと開いて五大明王が現れる場面を見てみたくなりました。
2mを超える巨像で、頭部が大きく圧倒的な存在感のある重要文化財《十一面観音菩薩立像》は、33年に一度開帳される秘仏。展覧会にお出ましになる機会もあまりないので、ぜひこの機会にご覧いただきたいです。
| 重要文化財《十一面観音菩薩立像》平安時代・9~10世紀 三重・観菩提寺 通期展示 |
| 弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」 東京国立博物館 2026年 展示風景 |
最後のエリアに展示されている、国宝《五智如来坐像》(京都・安祥寺)と重要文化財《愛染明王坐像》(山梨・放光寺)は写真撮影ができます。
その場で撮影の注意事項をご確認ください。
顔の前で弓矢を構え、天を射るかのような姿から「天弓愛染明王」と呼ばれる重要文化財《愛染明王坐像》は、絵画で描かれることはあっても、彫像としてはとても珍しい例なのです。
| 重要文化財《愛染明王坐像》平安時代・12世紀 山梨・放光寺 通期展示 |
そして最後は、初期密教彫刻の傑作、国宝《五智如来坐像》(京都・安祥寺)。
みなさまとてもおだやかで可愛らしいお顔をしています。
このように横から見ると、正面から見たときには感じなかったのですが、私たちと一緒に前に向かって進んでいるように思えました。
展示替えがありますが、会期中88件の作品が展示されます。
暑い日が続いていますが、展示室内は快適です。この機会に霊場めぐりにちなんで88件の名宝、名品をめぐる旅を体験してみませんか。