東京・上野公園の東京国立博物館 平成館では、開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺ー百花繚乱 御所ゆかりの絵画ー」が開催されています。
大覚寺は、弘法大師を宗祖と仰ぐ真言宗大覚寺派の本山。
今回の特別展は、今からおよそ1200年前、都が平安京に移ってまもない頃、嵯峨天皇(786-842 在位809-823)の離宮として建てられた嵯峨院が、貞観18年(876)に寺に改められられてから来年(2026)で1150年を迎えるのに先立ち、優れた寺宝の数々が一挙に公開される展覧会です。
それではさっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展覧会開催概要
会 期 2025年1月21日(火)~3月16日(日)
※会期中、一部作品の展示替え、場面替えがあります。
前期展示:1月21日(火)~2月16日(日)
後期展示:2月18日(火)~3月16日(日)
休館日 月曜日(ただし、2月10日、24日は開館)、2月25日(火)
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで
会 場 東京国立博物館 平成館
※掲載した写真は、報道内覧会で主催者より許可を得て撮影したものです。
※本展では、第4章に限り撮影可です。会場内で撮影の注意事項をご確認ください。
展示構成
第1章 嵯峨天皇と空海ー離宮嵯峨院から大覚寺へ
第2章 中興の祖・後宇多法皇ー「嵯峨御所」のはじまり
第3章 歴代天皇と宮廷文化
第4章 女御御所の襖絵ー正寝殿と宸殿
第1会場に入ってすぐは第1章の展示。
大覚寺ゆかりの《嵯峨天皇像》と《弘法大師像》にご挨拶をして先に進むと、目の前に現れたのは、見上げるほどの巨大な仏像群。
ここは東京国立博物館の平成館なのですが、京都国立博物館の平成知新館に迷い込んでしまったのでは!と驚いてしまいました。
第1章展示風景 |
五大明王は、真言密教の本尊・大日如来の命を受けて、いっさいの悪魔・煩悩を降伏させるため忿怒の相をとっているので迫力十分。ガラスケースもなく、これだけ近い位置で拝観することができるので、その迫力がダイレクトに伝わってきます。
左から順に、大威徳明王、軍荼利明王、そして中央に鎮座するのは五大明王の主尊不動明王、続いて降三世明王、金剛夜叉明王です。
もとは大覚寺のすぐ近くの清凉寺の五大堂に安置されていて、明治時代初期に大覚寺に移されたとされる五大明王像は、清凉寺五大堂のたび重なる災害により被害を受け、その都度復興していたので制作年代も異なっています。
五大明王像の制作時期等は次のとおりです。
大威徳明王 院信作 室町時代・文亀元年(1501) 重要文化財
軍荼利明王 院信作 室町時代・文亀元年(1501) 重要文化財
不動明王 院信作 室町時代・文亀元年(1501) 重要文化財
降三世明王 江戸時代・17~18世紀
金剛夜叉明王 江戸時代・17~18世紀
(いずれも京都・大覚寺蔵 通期展示)
それぞれ個別ケースに納められているのは、大覚寺本尊の五大明王像です。
左から、不動明王、降三世明王 どちらも平安時代・12世紀 金剛夜叉明王 平安時代・安元2年(1176) いずれも 重要文化財 明円作 京都・大覚寺蔵 通期展示 |
右 軍荼利明王 平安時代・安元3年(1177) 左 大威徳明王 平安時代・12世紀 どちらも 重要文化財 明円作 京都・大覚寺蔵 通期展示 |
この五大明王像は、とても珍しく貴重な仏像なのです。
作者の明円(?~1199頃)は、平安中期の仏師、定朝(じょうちょう)を祖とする院派、円派、奈良仏師(慶派)のうち円派の正統仏師で、この五大明王像は、安元2~3年(1176-77)にかけて、当時院政を行っていた後白河上皇の御所で制作されました。
そして、明円が平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活動したことは同時代の諸史料により知られているのですが、当代一流の仏師・明円作の仏像で現存しているのはこの五大明王像だけなのです。
五大明王像は、普段は厨子に納められているので、正面からしか拝むことができませんが、今回は正面だけでなく左右からも、すぐ目の前で拝むことができます。
五大明王像が5体そろって東京にお越しいただくのは今回が初めてですので、この機会にぜひ近くで拝観いただきたいです。
遠くではよく見えなくても、近くで拝見するとよく見えてくるものがあります。
「金剛夜叉明王」の正面を向いたお顔は、額に一つ、目の位置にはそれぞれ二つ、あわせて五つの目を持ち、仏教の敵や煩悩を追い払おうとにらみつけているので、より一層怖さが感じられます。
そして、時代の転換期の作品らしく、優美で穏やかな作風と写実的で力強い表現が巧みに調和した名作であることも感じ取ることができます。
重要文化財 金剛夜叉明王 平安時代・安元2年(1176) 明円作 京都・大覚寺蔵 通期展示 |
個人的には、およそ850年にわたり「降三世明王」に踏み続けられているヒンドゥー教のシヴァ神とその妻ウマーの表情が印象に残りました。
大覚寺の寺宝でよく知られているのは、仏像でいえば「秘仏」とも言える、60年に一度しか開封が許されない「勅封般若心経」ですが、前回は平成30年(2018)に開封されたので、今回の特別展では展示されていません。
そこで、今回は後嵯峨上皇(1220-72)が、嵯峨天皇にならって行った般若心経の書写供養の関する記録「勅封般若心経関連文書 正元元年勅封心経写筆供養記」 と、「勅封般若心経」の開封記録「勅封般若心経関連文書 勅筆心経開封目録」が展示されています。
第2章には、出家して自ら門跡(門主、住職)となり、大覚寺の再興に尽力した後宇多天皇(法皇)(1267-1324)の書(宸翰)や肖像画はじめ、ゆかりの寺宝が展示されています。
下の写真右は、中世の大覚寺の大伽藍の様子を伝える境内図「大覚寺大伽藍図」(江戸時代・18~19世紀 京都・大覚寺 通期展示)。
書き込まれた建造物の名から、後宇多法皇入寺以降、延元元年(1336)に伽藍が消失するまでの配置が記されたものと考えられていますが、当時は大沢池の北側にも堂宇が配置されていたことがわかります。
第2章展示風景 |
第3章には、「源氏物語(大覚寺本)」や織田信長、豊臣秀吉の書状とともに、平安時代中期の武将・源満仲から将軍・源頼朝まで源氏に代々伝承された太刀がそろって展示されるので、刀剣ファン必見です!
右 重要文化財 太刀 銘 安綱(名物 鬼切丸〈髭切〉) 平安~鎌倉時代・12~14世紀 京都・北野天満宮蔵 左 重要文化財 太刀 銘 ▢忠(名物 薄緑〈膝丸〉) 鎌倉時代・13世紀 京都・大覚寺蔵 どちらも通期展示 |
そして第4章では、大覚寺に伝わる約240面(一括して重要文化財に指定)におよぶ襖絵・障子絵などの障壁画のうち123面が前期後期で展示されます(前期100面、後期102面を予定)。
大覚寺伽藍の中央に位置する宸殿(重要文化財)は、元和6年(1620)に後水尾天皇に入内した徳川和子(東福門院)の女御御所がのちに移築されたものと伝えられ、正寝殿(重要文化財)は安土桃山時代を代表する建築の一つで、この障壁画の多くをてがけたのは安土桃山から江戸時代初期にかけての絵師で、狩野永徳の弟子になり、京狩野の祖となった狩野山楽(1559-1635)でした。
色彩豊かな花鳥画や静謐な水墨山水の名品がならぶ様は、まさに壮観の一言。
展覧会オリジナルグッズも盛りだくさん。
怖いというよりかわいらしい感じの「不動明王ぬいぐるみ」や、きらびやかな「襖絵クッション」はじめ、ラインナップも充実しています。
会場内特設ショップにもぜひお立ち寄りください。