2013年10月10日木曜日

「横山大観展」夜間特別観覧会(横浜美術館)&映画「天心」試写会

先週の土曜日(10月5日)、横浜美術館でこの日から始まった「横山大観展-良き師、良き友」のブロガーナイト(夜間特別観覧会)に参加してきました。


横浜美術館のブロガーナイトは前回の「プーシキン美術館展」に続き2回目です。いつも抽選にはずれてしまう美術館もある中、地元横浜で2回とも当選できてうれしい限りです。
横浜美術館のみなさま、「横山大観展」広報事務局のみなさま、こんな素晴らしい機会を与えていただきありがとうございました。微力ながらこのブログでしっかり宣伝させていただきます。

なお、紹介した写真は、夜間特別観覧のため特別に撮影許可をいただいたものです。
(上の写真の奥にある画家・山口晃さんが描いた横山大観や岡倉天心たちの肖像画の特設ボードは記念撮影可です)

夜間特別観覧会は、横浜美術館主任学芸員の八柳サエさんのミニレクチャーと、特別観覧会の2部構成でした。

ミニレクチャーでは、今回の展覧会の特長や見どころなどをスライドを見ながら解説していただきました。
はじめに今回の展覧会の特長についてお話をいただきました。
「ひとつめは、若手画家との交流がさかんだった壮年期の大観に焦点を絞ったことです。大観と言うと年をとってからは『巨匠』というイメージで、お国のために富士山ばかり描いた人というイメージが強いですが、この時代の大観はのびやかでユーモラスな作品を描いていたんです」

「ふたつめは、今年は岡倉天心生誕150年、没後100年、まさに天心イヤーと言っていい年なので、『良き師』である天心の影響を受けた明治期と、大正2年に天心が没した後、『良き友』たちと交流した大正期から第1回文化勲章を受章した昭和12年までを対照させたことです」

次に展覧会の構成とそれぞれの見どころについてお話をいただきました。

構成は、

 第1章 良き師との出会い:大観と天心
 1-1 天心との出会い
 1-2 日本美術の理想に向けて
 第2章 良き友-紫紅、未醒、芋銭、渓仙:大正期のさらなる挑戦
 2-1 水墨と色彩
 2-2 構図の革新とデフォルメ
 2-3 主題の新たな探究
 第3章 円熟期に至る

となっていて、メインの第2章の構成については、どれだけ時間がかかったかわからないほど悩まれた、とのことでした。
こういうお話をおうかがいすると、こちらも気合を入れて絵を見なくてはという気になってきます。

それではさっそく展示室に。
「見どころ」は展示室ごとにふれさせていただきます。

まずは第1章の第1セクション「天心との出会い」
入口には大観の東京美術学校(現・東京藝術大学)の卒業作品「村童観猿翁」。
写真では小さくてよくわかりませんが、猿回しのおじいさんは大観の先生だった橋本雅邦、子どもたちは同級生をモデルにしたそうです。

第2セクション「日本美術の理想に向けて」の見どころは何といっても「屈原」。


中国戦国時代の大詩人であり、楚国の政治家であった屈原は、事実無根の誹謗により国を追放され、絶望のうちに川に身を投げて命を絶ったという悲劇の人。
この屈原に、東京美術学校を同じく誹謗により追放された岡倉天心を重ね合わせ、大観はこの作品を描いている、とのことで、この後に描いた作品の人物がどれもおっとりとした感じなのに比べて、この屈原だけは鬼気迫る表情をしています。
この作品は必見ですが、展示は10月16日(水)まで。次の三連休がチャンスです。

第2セッションは続きます。
明治36年のインド旅行の影響を受けた作品も見られます。

第2章の第1セクション「水墨と色彩」
ここの見どころの一つは水墨の「長江の巻」と、

琳派を思わせる斬新な色あいの「秋色(しゅうしょく)」。


こちらは第2セクション「構図の革新とデフォルメ」のコーナーの入り口。
一番左の絵は講師の八柳さんが「お茶の水博士のような団子鼻」とユーモアをこめて説明されていた「老子」。
その隣は、私が特に気に入った「浪」。しばらく見入ってしまいました。

第3セクションは「主題の新たな探究」
「千ノ與四郎」は若き日の千利休。
すでに掃き清めた庭を掃くように命じられた利休が、木をゆすって葉を落とし、風情を出したという逸話を題材にしたものです。
「わび、さび」の人を、きらびやかさの中にあえて配置したという、まさに主題を新たに解釈した作品、とのことです。

今回の展覧会は壮年期の大観なので、富士山の絵は少しですが、やはり大観といえば富士。
富士山の絵もあります。


右が大観の「霊峰不二」、左が小杉未醒の「飛天」。

第3章「円熟期に至る」は大正期の大観の集大成といえるべきものです、と八柳さん。
こちらは「野の花」。大原女は大観の奥様がモデルだそうです。
 


 
作品の紹介は以上です。
東京美術学校の学生時代から、「良き友」との交流から生まれた壮年期まで、大観の作風の変化がよくわかる展示でした。
前期だけでも見ごたえのある展示ですが、今回のハイライトのひとつ「夜桜」は後期展示ですし、期間限定の作品もあるので、「これは何回も来なくては」と思わせてくれる展覧会です。

音声ガイドのナビゲーターは、この秋公開予定の「天心」で岡倉天心役を演じた竹中直人さん。

展示替えや、学芸員さんのギャラリートークなど関連イベントの詳細はホームページでご確認ください。
(大観展オフィシャルサイト)
http://taikan2013.jp/about/index.html

前回のプーシキン美術館展に来られた方も、来られなかった方も、大観展を機会に、ぜひ横浜にいらしてください。
あれ?「横山大観」がいつの間にか「横浜大観」に。
 


(追伸)
本日(10月10日)、横浜・関内で開催された「天心」の試写会に行ってきました。

監督の松村克弥さんが冒頭のごあいさつで「竹中さんが本当によく(天心役を)受けてくれた」とお話しされていましたが、「変人」岡倉天心を何の違和感もなく演じられていました。
きっと天心のような「変人」いなければ日本美術は守られなかったのでしょう。
大観役の中村獅童さんはじめ、下村観山、菱田春草、木村武山、狩野芳崖を演じだ役者さんも、みなさんはまり役で、それぞれの画家の作品を見るときは映画の場面やセリフを思い出してしまいそうです。
近代日本画に興味のある方、必見です。

(ロードショーの状況などは映画「天心」オフィシャルサイトをご参照ください)
http://eiga-tenshin.com/


美術の分野では、去年がフェルメール・イヤーなら、今年は天心イヤー。
そのせいか、最近は特に近代日本画の美術展ラッシュでうれしい悲鳴を上げています。
先週は会期末が近くなった「速水御舟」展(10月14日まで山種美術館で開催)に行って墨のグラディーションの妙や筆遣いの細やかさに感動して、今週末はやはり10月14日に終了する「竹内栖鳳」展(東京国立近代美術館)にすべり込みで行くつもりです。
「天心」を見て、観山の実直さに感動したので、大観展のあとに横浜美術館で開催される「下村観山」展にも行ってみたくなりました。

これは「速水御舟」展で特に気に入った「白芙蓉」の絵はがき。ミュージアムショップで買いました。