選挙戦と言っても日本のように選挙カーで候補者名を連呼したり、街頭で候補者が演説するといったことはなく、街の中は至って静かである。
ミュンヘンにいた3日間でも、Linke(左派)がバイエルン州立歌劇場前の広場で集会を行っているのを見かけたくらいだろうか。あとはポスターにいつどこで候補者の演説会があるといったお知らせが書かれているくらいで、街頭での選挙活動はまったく見かけない。
それは、ドイツではたいていの人が支持する政党を決めていて、日本のように浮動票が大多数を占めるということがないからである(たとえば、ZDFでは「もし来週の日曜日に選挙があるとしたら、どの政党に投票しますか」といった世論調査を毎週行っているが、「その他」はせいぜい5%くらい)。
連邦議会選挙の結果は、CDU/CSU(キリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟)が4年前の選挙から6.9ポイント伸ばして41.5%の票を獲得し、2.7ポイント伸ばして25.7%の票を得た最大野党のSPD(社会民主党)を大きく引き離して、選挙前の予想どおりCDU/CSUが大勝した。
しかし、「素晴らしい結果だ(Superergebnis)! 」と言って満面の笑みを浮かべていたメルケル首相も喜んでばかりいられない。
連立相手のFDP(自由民主党)が5%条項をクリアできず議席を失ったため、連立与党として過半数に達しなかったからである。与党として過半数を得るためには、今まで政策的に対立していた野党の中から連立相手を選ばなくてはならなくなってしまったのだ。
全630議席の各政党の議席配分は次のとおりである(過半数は316)。
CDU/CSU 311、SPD(社会民主党) 192、Linke 64、Grüne(緑の党) 63
数の上だけで見ると、CDU/CSUは他のどの政党と組んでも過半数を超えるが、実際には政策の違いやそれぞれ政党のお家の事情でそう簡単には行かない。
CDU/CSUと最大野党のSPDが連立を組むいわゆる「大連立」は、国民から大きな支持を得ているが、SPDの側には2005年から2009年に大連立を組んだとき、メルケル人気に食われて以後大きく支持率を下げたことから、大連立に対するアレルギーが根強く残っている。
ZDF(ドイツ第二放送)が9月27日に行った世論調査では、全体としては58%が大連立に賛成している。SPD支持者の間でも64%が大連立に賛成しているが、SPD支持者の中には、大連立によってSPDがダメージを受けると答えた人が50%に達していて、心境の複雑さがうかがえる(SPDの利益になると答えた人は38%)。
環境保護重視の緑の党と経済発展重視のCDU/CSUは、以前は連立など考えられなかったが、東日本大震災後にCDU/CSUが原発廃止に舵を切ったため、まったく歩み寄りができない政党ではなくなってきた。
緑の党の支持者の間でも、「CDU/CSUとの連立がもっとも良い」が67%で、「大連立がもっとも良い」の57%、「SPD、Linkeとの連立がもっとも良い」の47%を引き離している。
一方で、海外派兵やユーロ支援に反対する左派とCDU/CSUは、政策が違いすぎるので連立はあり得ない(世論調査の質問項目にも入っていない)。
つまり考えららえる連立の組み合わせは、①CDU/CSUとSPDの大連立(議席数503)、②CDU/CSUと緑の党の連立(同375)、③SPD、左派、緑の党の連立(同319)の3パターンだけである。
ユーロ支援へのスタンスなど政策的には左派とSPD、緑の党との距離も大きく(SPDと緑の党は連立を組んだこともある)、また、ZDFの世論調査では③のパターンに賛成が22%、反対が67%で、大多数の国民は支持していないが、今回の選挙で第三党に躍り出て勢いに乗る左派のグレゴール・ギジー議員団長は、ZDFとのインタビューで「SPD、左派、緑の党の3党で過半数を超えているのに、なぜこのチャンスを生かさないのか」と、余裕たっぷりにSPDと緑の党に連立交渉を呼びかけている。
1948年生まれで東ドイツ出身のギジーは、SED(ドイツ社会主義統一党)の後身で1990年に設立されたPDS(民主社会党)を率いてからすでに20年以上たつのに、風貌だけでなく落ち着きのなさやよくしゃべるところ、それでいてなんとなく憎めないところは以前と全く変わらない。
(ZDFのこの記事の「Video Gysi」をご参照ください。ドイツ語が分からない人でもギジーの「うるささ」がよくわかります)
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http://www.heute.de/Linke-Rot-rot-grüne-Basis-fragen-29931006.html
可能性は少ないと思うが、選挙に大勝したCDU/CSUに一発大逆転でSPD、左派、緑の党の連立が実現しないとも限らない。
だから私は、このギジーがドイツの将来を占うキーパーソンだと考えている。
ではその時、やはり落ち着きがなくて、受けないギャグを連発するSPDの首相候補シュタインブリュックが首相になるのか?
他の国から、ドイツの中年おじさんはみんなこんなに落ち着きがないと思われてしまわないか?
(←これは冗談ですが)
個人的には緑の党のユルゲン・トリティンさん(下の写真)のように落ち着いて風格があって、なおかつ気さくな感じの人の方が好きなのだが。
いずれにしても、SPDは大連立を組むかどうかは11月14日から16日にかけてライプツィヒで行う党大会で民主的に決定する、と決めたので、これからのドイツはどうなるのか、しばらくは目が離せないところである。