2022年12月6日火曜日

三菱一号館美術館 ヴァロットンー黒と白

東京・丸の内の三菱一号館美術館では、「ヴァロットン-黒と白」が開催されています。

三菱一号館美術館外観

今回の展覧会は、同館が所蔵する約180点のヴァロットン版画のコレクションが一挙公開されて、黒と白で表現されたヴァロットン版画の魅力をたっぷりと味わえるまたとない機会です。

展覧会開催概要


会 期  2022年10月29日(土)~2023年1月29日(日)
休館日  月曜日、12/31、1/1 
     ※ただし、12/26、1/2、1/9、1/23は開館
開館時間 10時~18時(金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)
     ※入館は閉館の30分前まで
入館料  一般:1,900円 高校・大学生:1,000円 小・中学生:無料
展覧会の詳細等は同館公式サイトをご覧ください⇒三菱一号館美術館 


展示構成
 Ⅰ 「外国人のナビ」ヴァロットン 木版画制作のはじまり
 Ⅱ パリの観察者
 Ⅲ ナビ派と同時代のパリの芸術活動
 Ⅳ アンティミテ:親密さと裏側の世界
 Ⅴ 空想と現実のはざま

※ 展示室内は一部を除き撮影禁止です。また、ミュージアムショップ内も撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。
※ 作家名は記載がない限りフェリックス・ヴァロットン、作品の所蔵先は記載がない限り 
 三菱一号館美術館です。

Ⅰ 「外国人のナビ」ヴァロットン 木版画制作のはじまり


最初の部屋に展示されているのは、1865年にスイス・ローザンヌに生まれて16歳の若さでパリに出たヴァロットンが制作した初期の作品。

「過去、現在あるいは未来の不滅の人々」の連作で描かれている人物はどことなくユーモラス。
Ⅰ「外国人のナビ」ヴァロットン 展示風景 


《老年のレンブラントの肖像》はレンブラントの自画像にそっくり!
と思ったら、尊敬するレンブラントの自画像にもとづいて制作されたものでした。
巨匠だけあってさすがに貫禄があります。

《老年のレンブラントの肖像》1889年

珍しいものが展示されていました。

Ⅰ「外国人のナビ」ヴァロットン 展示風景

上の写真中央のケースに入っているのは、左の作品《1月1日》のための版木。
版木は、作品の希少価値を高めるため、たとえば30部刷るとそれ以上刷れないように壊していたので、このように版木が残されているのは、まさに「珍しい」ことなのです。

《1月1日》のための版木 1896年
フェリックス・ヴァロットン財団、ローザンヌ


そして、日本の浮世絵は絵師、彫師、摺師と分業制なのに対し、木版画は画家自身が彫るので、そういった意味でも貴重な版木なのです。

刷られた作品はこちらです。

《1月1日》1896年


Ⅱ パリの観察者


※「Ⅱ パリの観察者」が展示されているこの展示室のみ写真撮影ができます。展示室内で注意事項をご確認ください。

Ⅱ パリの観察者 展示風景


スイスからやってきたヴァロットンが注目したのは、華やかな「花の都」の景色でなく、パリの群衆や騒乱の場面でした。

突然の雨に前かがみに歩いたり、足をあげて走ったりする人たちが画面から飛び出してきそうな勢いで描かれている《にわか雨》(息づく街パリⅦ)。


《にわか雨》(息づく街パリⅦ) 1894年


警官の到着に慌てふためくデモの参加者たち。
こんな混乱した場面でも、乳母がベビーカーを押している姿が画面左上に見えます。

《街頭デモ》 1893年

当時、乳母は黒くて長いリボンをつけていました。
ヴァロットンの油彩の作品《公園、夕暮れ》のにも乳母が描かれているので、ぜひ探してみてください。

《公園、夕暮れ》1895年



Ⅲ ナビ派と同時代パリの芸術活動


木版画で名を知られるようになったヴァロットンは1893年初め、パリの若い前衛芸術家たちのグループ「ナビ派」に仲間入りしましたが、ヴュイヤールやボナールらの多色刷りのリトグラフに対して、ヴァロットンは黒一色の木版画にこだわりました。
木版画家ヴァロットンの心意気ここにあり!

Ⅲ ナビ派と同時代パリの芸術活動 展示風景


《ドストエフスキーに》 1895年


あっ、柱の影からは少女が!



展示室内のところどころにある映像の演出も楽しめます。

それに、各章の解説パネルの上の数字はパネルに直接書かれているのでなく、影だったのです。
これもさりげないオシャレな演出です。





Ⅳ アンティミテ:親密さと裏側の世界


1898年に制作され、翌年に限定30部で刊行された男女関係と結婚生活の不協和音が奏でられた10の場面で構成されている〈アンティミテ〉の連作はヴァロットンの真骨頂。

本来は暗闇であるはずの黒にその場の雰囲気を語らせているのです。

Ⅳ アンティミテ:親密さと裏側の世界
展示風景

そして、注目はこちら。
最初は一つの作品かと思ったのですが、これは版木が破棄されたことを証明するために10点の版木を切断して組み合わせたもの。
ジグソーパズルではありませんが、それぞれの破片が《アンティミテ》の作品のどの部分なのか探してしまいました。

《アンティミテ》版木破棄証明のための刷り
1898年


姉妹館提携/アルビ・ロートレック美術館開館100周年 特別関連展示
ヴァロットンとロートレック 女性たちへの眼差し

今回は三菱一号館美術館と姉妹館提携しているアルビ・ロートレック美術館所蔵のロートレック作品が特別出展されて、ヴァロットン作品との競演が見られます。

ヴァロットンとロートレック 女性たちへの眼差し
展示風景

Ⅴ 空想と現実のはざま


フランスの小説家・詩人で劇作家としても有名なジュール・ルナールの作品とコラボしたヴァロットン挿絵による表紙。
下の写真後方の中央は、ヴァロットンが影響を受けた葛飾北斎『北斎漫画』!


Ⅴ 空想と現実のはざま 展示風景



最後の部屋に展示されていた「これが戦争だ!」の連作6点は、特に印象に残った作品でした。

Ⅴ 空想と現実のはざま 展示風景

これは、およそ100年前にあった第一次世界大戦の様子でなく、ロシアによるウクライナ侵攻が続く、まさに今起こっていることのように思えたからなのです。

《塹壕(これが戦争だ!)》 1915年


三菱一号館美術館は、次の展覧会「芳幾・芳年-国芳門下の2大ライバル」開催後、長期休館に入ります。
今回は、いわば休館前の「ヴァロットン作品全部出し」の展覧会。
展示すればするほど劣化する紙製の木版画がこれだけ展示される展覧会は今後二度と開催されないかもしれません。

この機会をお見逃しなく!

黒と白のヴァロットン作品に関連したグッズも充実しています。
ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。

ミュージアムショップ