2022年12月21日水曜日

すみだ北斎美術館 企画展「北斎かける百人一首」

子どものころ、お正月になると羽根つきや福笑い、凧揚げや独楽回し、かるた取りなどで遊んだことが懐かしく思い出される展覧会、企画展「北斎かける百人一首」が東京・墨田区のすみだ北斎美術館で開催されています。

3階ホワイエのフォトスポット

読み手が上の句を読んで下の句が書かれた札をとる「百人一首かるた」が得意であった人はもちろん、あまり得意でない方も(筆者は後者の方でした)、葛飾北斎の「百人一首乳母かゑとき」シリーズはじめ、江戸時代の人たちが百人一首で遊ぶ姿や歌仙たちが描かれた浮世絵を見て正月気分が味わえるとても楽しい展覧会です。

展覧会概要


会 期  2022年12月15日(木)~2023年2月26日(日)
 前期:2022年12月15日(木)~2023年1月22日(日)
 後期:2023年1月24日(火)~2023年2月26日(日)
 ※前後期で一部展示替えあり
開館時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日  毎週月曜日、年末年始(12/29-1/1)
     ※開館:1月2日(月・休)、1月3日(火)、1月9日(月・祝)
     ※休館:1月4日(水)、1月10日(火)
会 場  3階企画展示室
観覧料  一般 1,000円 高校生・大学生 700円 65歳以上 700円
     中学生 300円 障がい者 300円 小学生以下 無料
 ※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラス「隅田川両岸景色図巻(複製
  画)と北斎漫画」もご覧になれます。
  常設展プラスには「隅田川両岸景色図巻(複製画)」が展示されていて、北斎の絵手本の
  レプリカを手に取って読むことができる<『北斎漫画』ほか立ち読みコーナー>もあり
  ます。

 ※展覧会の詳細、関連イベント、新型コロナウイルス感染症対策等は同館公式HPをご覧
  ください⇒すみだ北斎美術館
 ※出品作品はすべてすみだ北斎美術館の所蔵品です。

展示構成
 序章  『百人一首』の成立
 第1章 『百人一首』の普及
 第2章 『百人一首』の発展
 第3章 描かれた『百人一首』

※3階の企画展展示室、4階の常設展プラス展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は内覧会で美術館より特別に許可をいただいて撮影したものです。
※3階ホワイエのフォトスポット、高精細複製画は撮影可。4階AURORA(常設展示室)内は一部を除き撮影可です(いずれもフラッシュ、三脚(一脚)の使用は不可。)

3階ホワイエ
 葛飾北斎「新年風俗図(初夢・朝化粧)」(高精細複製画)
(原画:フリーア美術館蔵)
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art, Smithsonian
 Institution, Washington, D.C.: Gift of Charles Lang Freer, F1903.52, F1903.53




それではさっそく展覧会の見どころを中心に展示の様子をご紹介したいと思います。


見どころ1  北斎の技(わざ)、北斎の世界観が光る「百人一首乳母かゑとき」シリーズが前期後期で見られます!


「百人一首乳母かゑとき」シリーズは、「冨嶽三十六景」や「諸国名橋奇覧」などに続いて制作された北斎最後の大判錦絵シリーズで、全部で錦絵27図が出版されたもののうち、今回の企画展では同館が所蔵する錦絵23図を前期・後期で見ることができます。

本シリーズは、乳母が絵解きをするように大人が子どもに和歌の意味を説明するという設定で企画されました。

「百人一首乳母かゑとき」シリーズ 展示風景


『百人一首』なので全部で100図の錦絵があってもいいはずなのですが、実際には27図の錦絵と60図以上の版下絵が知られていて、100図の出版には至りませんでした。

その理由としては、このシリーズは色数が多く、手の込んだ技法も多かったので原価が高かったことが想定され、天保の大飢饉の中の不況で採算が取れなかった可能性や、歌から連想されることがらや、歌人のイメージを江戸の風俗に盛り込むなど、北斎独自の世界感を表現しているので、当時の一般の人にとって絵の内容が理解しにくいという可能性が考えられています。

ということは、今回の企画展「北斎かける百人一首」(=北斎×『百人一首』)のタイトルどおり、『百人一首』を通して北斎ならではの技(わざ)や、北斎ならではの世界観が見られると言うことがきるのです。


下の写真左は、秋の田を詠んだ天智天皇の歌にちなんで、稲刈りが終わり、稲穂を背負って運ぶ人々や旅人が描かれています。
稲穂の細やかな表現や、木々や背景の山などにいくつもの色を使っているところなどに北斎のこだわりが感じられます。

右は柿本人麻呂の歌から連想して漁師たちが地引網をひく場面が描かれた作品で、画面左上の庵の中には人麻呂本人と思しき人が見えます。

このシリーズには歌人を思わせる人物が登場する作品もあるので、細かいところまで見逃せないです。


(左から)葛飾北斎「百人一首うはかゑとき 天智天皇」
「百人一首乳母かゑとき 柿の本人麿」
どちらも前期展示

百人一首の母胎となる『百人秀歌』の撰者と考えられている鎌倉初期の歌人、藤原定家自身の歌も百首の中に入っています。

下の写真右は定家の歌から連想して、塩づくりの場面が描かれていますが、気になるのはその左隣の作品。
「百人一首乳母かゑとき」シリーズの作品が並んでいるはずなのに、なぜか「冨嶽三十六景 本所立川」。

最初は何かの間違いではと作品タイトルを見返したのですが、これは決して間違いではありません。
両方の作品の画面左上の人物に注目すると、上から下の人に物を投げろす姿勢がそっくりなのです。
このような組み合わせはほかにもあるので、やはりどの作品も細部までじっくり見れば楽しみ倍増です。


(右から)葛飾北斎「百人一首宇波か縁説 権中納言定家」
「冨嶽三十六景 本所立川」
どちらも前期展示




見どころ2  あの有名な歌人に会えます


こちらは、山部赤人とともに「歌聖(うたのひじり)」と称され、和歌三神の一人とされる柿本人麻呂が描かれた蹄斎北馬の「和歌三神の図」。
人麻呂はいつもリラックスした姿で描かれているので、左下の人物が人麻呂ではないかと思われます。

蹄斎北馬「和歌三神の図」前期展示 

山部赤人と柿本人麻呂が並んで描かれたものもありました。(下の写真の右ページ上)

葛飾為斎『北斎人物画譜』山辺の赤人 柿本人麿
通期展示


抱亭五清の「草紙洗小町」は、宮中の歌合で小野小町の相手となった大伴黒主が小町の歌を盗み聞いて、それを『万葉集』に書き入れて小町の歌は古歌だと訴えたところ、小町が『万葉集』のその草紙を洗うと歌の文字が消えたという謡曲の場面を描いた作品。


抱亭五清「草紙洗小町」 前期展示

大伴(大友)黒主も小野小町も六歌仙に名を連ねるほどの優れた歌人ですが、六歌仙の中で黒主だけが唯一『百人一首』に歌が選ばれなかったのは、このようにダーティーなイメージがつきまとったからなのでしょうか。
まるでスパイ小説を読んでいるような「草紙洗小町」の逸話の真偽のほどはわかりませんが、宮中の歌合ではこういった逸話が出てくるほど火花散るバトルが繰り広げられたであろうことは想像に難くありません。


見どころ3  『百人一首』がより身近に感じられます


『百人一首』はあまりなじみがないから今回の展覧会は面白くないかも、と思われる方、ご心配なく。

『百人一首』の成立⇒普及⇒発展⇒描かれた『百人一首』といった展示構成になっているので、展示室を回りながらいつの間にか『百人一首』の世界に入り込むことができます。
また、会場では『百人一首』の歌が全部掲載された「百人一首一覧」が配布されているので、ぜひお手に取ってご覧ください。

序章 『百人一首』の成立

『百人一首』の母胎となった『百人秀歌』が編纂されたとされる、京都・嵯峨の小倉山にまつわる作品が展示されています。

序章 展示風景

第1章 『百人一首』の普及

女性たちがお正月に着物を着てかるた取りを楽しんでいる、今と変わらない光景が描かれている菱川宗理「美人正月遊興図」。

菱川宗理「美人正月遊興図」 前期展示


第2章 『百人一首』の発展

『百人一首』にもさまざまな派生形がありました。
こちらは百人ならぬ五拾人一首。選ばれているのは和歌でなく狂歌です。

葛飾北斎『五拾人一首 五十鈴川狂歌車』
前期後期で頁替えあり


第3章 描かれた『百人一首』

葛飾北斎の「五歌仙」シリーズは、いずれも『百人一首』に歌が撰ばれた女性の歌人たちが描かれた摺物です。

「五歌仙」シリーズ 展示風景

「五歌仙」シリーズのうち「檜扇」に描かれているのは、『源氏物語』の作者・紫式部。
2024年のNHK大河ドラマの主人公ですね。

葛飾北斎「五歌仙 檜扇」 前期展示


ミュージアムグッズも充実してます!

今回の企画展にあわせて『百人一首』関連の書籍やグッズも充実しているので、1階ミュージアムショップにもぜひお立ち寄りください。(ミュージアムショップは撮影禁止です。)

ミュージアムショップ


企画展オリジナルリーフレット「北斎かける百人一首」(税込300円)も好評発売中!



また、ミュージアムショップで特におススメなのは、「開館6周年記念 オリジナルアートペン」を含むアートペン(全5種・各1,500円税込)。
オリジナルはそのうち1種ですが、いずれも色彩豊かな北斎作品を特殊印刷で立体的に表現しているので、緻密な描写を指先で触った感触で楽しむことができるという優れものです。




北斎や門人たちの描いた『百人一首』でいっぱいの展覧会です。
ぜひお楽しみください!